命を削るような制作現場で
とりわけ、グラフィックデザイナーという仕事では、ゲームの開発が山場を迎えると、精神的に追い詰められることが多い。
「例えば『赤いリンゴの絵を描け』と言われてそれを描くのは、技術さえあればすぐにできます。でも、『誰も見たことがない、誰が食べてもおいしいと思う果物を描け』と言われたら、困りますよね。ゲームの開発では、そんなふうに、まったく新しい世界をつくらなくてはなりません。難しい要求が次々と降ってくる現場に何日もいると、命を削っているように感じるときもあります」
そんな中で子どもと向き合い、仕事に集中できないジレンマを抱えていたとき、彼女にある変化が起きた。
「昔は、自分にできることは相手もできるはずと思いこんでいたけれど、子育てをしているうちに、実はそうじゃないと気づいたんです。子どもって、自分の思い通りにはならないものでしょう?」
それまでの原さんは、要求に応えられない後輩や部下に厳しく接してきた。だが、意のままにならない子どもと日々接しているうちに、職場でもそれぞれの個性の違いを敏感に感じとれるようになっていったという。
「一人一人のよい個性を見抜き、それを伸ばす。そうしたほうが、チームの雰囲気もパフォーマンスも良くなることを実感するようになったんです」
部下や後輩に対して厳しい態度をとりがちだったのには、理由があった。
1999年にアルバイトとしてカプコンに採用され、自分の腕一つでキャリアを切り拓いてきた彼女は、ここが徹底した実力主義の世界だという思いを持ち続けてきた。
子どもの頃から絵を描くのが好きで、高校時代には漫画研究会を自らつくったほどだ。
一度は地元、大阪の住宅メーカーに就職したものの、「いつかは絵を描く仕事に就きたい」という思いが消えることはなかった。