バブル崩壊でプロジェクトが解散に
それでも、音響研究所にいた初めの7年間は純粋によい音を追求できるとても幸福な時代だった。ところがバブル崩壊とともに、1993年に小川さんがいた組織が解散に追い込まれる。
「これからどうしようかと迷いました。けれど、ちょうどDVDが出回り始めたころで、DVDオーディオはCDよりずっとよいデジタル音になるはずだと思ったので、それに賭けることにしました」
今までペアを組んで音質研究を進めてきた同期と一緒に挑戦することに決めた。ゼロからのスタート。文献を調べ、自分たちでマイクを担いでコンサートホールに出向いて音源を収録するところから手をつけた。
「ふつうコンサートホールで収録するときは天井のつりマイクを使います。そんなことも知らずに、座席の一番前にマイクスタンドを据えつけてしまいました。当然、聴衆の邪魔になるのでお叱りを受けました」
まだ規格の定まっていなかった、これからの技術であるDVDオーディオ。自分たちがその先端を行くのだという情熱が少しばかりオーバーランしてしまった。