サービスが遅れクレームの嵐

音響研究所で15年をすごしたのち、2001年にeネット事業本部でデジタルネットワークサービスに携わることになる。ADSLが定額制になって一気に普及していた。音楽コンテンツのネット配信がおぼろげに見えてきた時代だ。

eネット事業本部では後にいったん技術部門からはずれて、コンテンツ販売や、コンテンツが売れるように仕掛ける仕事につく。ブログに代表されるCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)という、消費者側からの情報発信が増えてきた時期に、新しくCGMチームをつくり、小川さんがリーダーになった。

メンバーは20代ばかり。今までのカッチリ作り込むメーカー体質と違い、完璧なものをつくる前に世に出してフィードバックをもらって改善するネットサービスの手法に新鮮味を覚えた。

ところが、思いもよらないアクシデントが待っていた。新サービスが予告していた日時に間に合わなかったのだ。

「前日、メンバーから『バグがすべて無くなりません』と報告がありましたが、『夜中じゅうに何とかします』と言われ、そのまま朝を迎えてしまいました。リーダーとして読みが甘かったんです」

その日、カスタマーサービスに何百という苦情が入った。今でも苦い思い出だ。

いくつかの失敗を経験しながらも、キャリアの階段を一段一段しっかりと歩んできた。これからは高級オーディオ「テクニクス」のブランド責任者として、大いに期待されている。半世紀の歴史があり、原音に忠実でスペックにも妥協しない高級ブランドだ。異動してから復活を発表するまでの4カ月間、死に物狂いでフィロソフィーをつくってきた。

「音楽を愛するすべての人々に、音楽の感動を伝えたい。人は忙しくなり、時間が細切れになり、音楽も細切れになってしまいました。いま一度、いい音で感動の体験をしてほしいと思っているんです」と力強く宣言する小川さん。そのけん引力で、テクニクス製品は2018年度に売り上げ100億円を目指す。

LIFE CHARTS

■Q&A

 ■好きなことば 
天然自然の理

 ■趣味 
旅、街歩き

 ■ストレス発散 
トレイルラン

 ■愛読書 
『竜馬がゆく』(高校時代、坂本竜馬のお墓にラブレターを埋めに行ったことも)


小川理子
パナソニック役員。1962年大阪府出身。86年慶應義塾大学理工学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。音響研究所、eネット事業本部などを経て2015年、役員に。ジャズピアニストとして14枚のCDをリリース。

撮影=貝塚純一