マイナス金利はデフレ脱却のための最終手段

マイナス金利政策の狙いと仕組みをやさしく解説しましょう。アベノミクスはデフレ脱却を図り、インフレ前提社会を構築するために、日銀とタッグを組んで量的金融緩和政策を推し進めています。量的緩和とはマネタリーベース(現金通貨+中央銀行への預け金)を拡大すること、端的に言えばお札の発行量を増やすことです。日銀は今でも毎月800億円ずつ新しいお札を発行し続けています。そして増やした紙幣は銀行に渡りますが、銀行はその大半を日銀当座預金に預金していました。何故なら既に世の中の預金金利は実質ゼロ金利になって久しい中で、日銀当座預金は0.1%という相対的に高い金利が付与されていたからです。銀行にしてみれば、無理して貸出しなどに資金を回す苦労をしなくても、置いておくだけで0.1%の金利が稼げるならノーリスクで楽だと判断して、結局銀行が預け置いた日銀当座預金は200兆円規模にまで積み上がってしまいました。

こんな状態では日銀がインフレを目指してお札の発行量(マネタリーベース)を増やしたところで、それらが市中に回っていかなければ、実体経済でのお金の量(マネーストック)は拡大しないわけで、この現象がアベノミクスによるインフレ率上昇を妨げる大きな要因のひとつだったのです。

それならば「銀行が日銀当座預金に置いておくと損になるようにしてしまおう!」と考え出されたのが、日銀によるマイナス金利政策です。銀行が余剰資金をそこに積み上げたままだと、金利を払わなければならなくなる。すると必然的に銀行がそれらを取り崩して、市中に回るお金(マネーストック)が増えることにより、インフレ率が上昇していくに違いない、というのが日銀の狙いなのです。

銀行がお金を市中に回す手段はやはり貸し出しがいちばんですが、企業や個人の資金需要は景気が上向いて安定してこないと増えるものではなく、すぐには融資を増やすことなどできないのです。そのため、金融機関は現在ひたすら当座預金に置けなくなったお金で、国債を買いまくっており、日本の国債利回り(長期金利)は10年金利までマイナスになってしまいました。この先おそらくもっと長い20年や30年といった超長期金利まで、ゼロに向かって低下していくことでしょう。これは、いよいよ本当に日本社会から金利が消滅する時代が到来したことを意味します。

マイナス金利政策が始まったということは、これで効果が足りないとなれば、日銀は更にマイナス幅を拡大させることが予想されます。やがて金融機関は、悲鳴をあげて貸し出しを増やすなど、いや応なく市中にお金を回さざるを得なくなります。マイナス金利はこれまでの常識を覆す、インフレ必至のメガトン級な劇薬なのです。