仕事、家庭生活、お金、親子関係……、さまざまなお悩みに、100冊以上の著作を誇る作家の本田健さんと、PRESIDENT WOMAN Onlineの連載「WOMAN千夜一夜物語」でおなじみのコラムニスト河崎環さんが回答する人生相談、連載第15回は「出来過ぎる後輩への接し方」に関するご相談です。

【今回のご相談】
会社の後輩が優秀過ぎて困っています。私が彼女を指導しなければならない立場なのですが、一を聞いて十を知るタイプのため、指導する隙がありません。時には不十分なところもあるのですが、その点について私はさらに不十分なため、恥ずかしくて指導できません。毎日会社に行くのが憂鬱(ゆううつ)です。どうしたらいいでしょうか。
優秀過ぎる会社の後輩。先輩としては、「手がかからない」と喜んでばかりもいられません。(イラスト=伊野孝行)

邪魔をせず、見守るのも役割の内

【河崎環さんの回答】

その昔、私が受験指導をしていた頃、最上位のコースやクラスには、教える側が思わず笑っちゃうほど優秀な生徒たちがたくさんいました。教える人間というのは自分の体験をもとに「これくらいやらせれば、これくらいの結果を出せるようになるだろう」と目論んで演習問題などをさせてみるのですが、優秀すぎる生徒たちはそんな企みの斜め上を走り、まさに一を聞いて十を知り、私のような講師が指導する隙など1ミリとしてないのでした。

あるとき、同じく最上位クラスを担当するベテラン講師がお茶を飲みながら話してくれたのは、「僕は、ここに教えに来ているとは思っていないんですよ。いつも生徒の邪魔にならないようにとだけ考えて、彼らの知的な輝きを見守るのが仕事だと思っています」。

法外にデキる人間というのは存在し、彼らは他人の指導を必要としていません。なので、「指導役」という先輩の役割や沽券は、ここでは忘れていいのでは。デキる彼女の邪魔をしないように、ただ職場の雰囲気を彼女よりも長く知っている相談役、そして社の利益追求という利害を一致したチームメイトとしてそばにいてあげれば、彼女は十分にのびのびと力をつけていくことができると思います。指導という言葉の意味は、教え導くこと以外にもあるのです。

女性回答者プロフィール:河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。