長期で見れば、株価は企業価値に付いてくる

さて、ここからが大切なところです。価値が大きくなるとは、世の中に「ありがとう」を生み出すチカラが増えること。そして長期投資のリターンとは、「ありがとう」を増やして、増えた価値の部分から利益の分配を受けることなのです。長期投資マネーは、価値を大きくするために必要な資金という役割ですから、そのおかげで実現できた価値の増大からのお礼として、胸を張って堂々といただけるリターンなのです。「ありがとう」を増やすためにお金を投じて、世の中が豊かになって、豊かになった分からお礼を受け取るのが本物の長期投資! 長期投資はステキでカッコいい行動ですし、立派な社会貢献なのです。

実はここに重要なポイントがあります。それは「長期的には価格が価値に収斂(しゅうれん)する」という真理です。日々の株価は常に上がったり下がったりを繰り返し、デタラメな値動きを続けていますが、それも長期で見れば、ちゃんと本来あるべき価格水準に回帰していくという株価の習性のことで、企業の価値が大きく育っていけば、やがて株価も企業価値にふさわしい水準に動いていくわけです。

この真理から言えること、それは価値あるものに投資していれば、日々の値動きはどうでもいいことで、長期に投資を続けることによって、いずれお金はちゃんと価値に向かって育っていくという法則が、長期投資のリターンの源泉だということです。つまり「よい会社」の株価はいずれ上がる。だから、株を買うときは長期的な視点で見て、「よい会社」「価値がある会社」に投資してほしいのです。

例えば家具のニトリ。創業以来、良質な家具を消費者目線に徹して安く提供する努力を怠らず、どんどん生活者からの支持が高まり続けている会社で、長期にわたる利益成長と連動して株価も見事に右肩上がりです。

株式会社ニトリホールディングスの過去10年の株価の推移。「10年タームで見ても、1株当たりの利益の推移と株価の成長がリンクしており、会社としての価値が株価に表れていると言える」とは中野さんのコメント。

ちなみに僕の会社「セゾン投信」のキャッチフレーズは「いそがないで歩こう」です。これが長期投資家に最も大切な心構えであると気付いていただけたでしょうか?

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。

図版作成=大橋昭一