エコロジーに力を入れている会社……世の中にはさまざまな「よい会社」がありますが、「よい会社」は株価もよいと言えるのでしょうか。セゾン投信社長・中野晴啓さんに、“長期投資”をキーワードにして、株価と企業価値の関係について教わります。

投資とは「ありがとう」を生み出す企業を見極めること

前回の連載第7回「投資とは、次世代のためにお金を活用すること」(http://woman.president.jp/articles/-/943)で、「長期投資」とは経済活動がもたらす成長を支え、より豊かな社会を実現するための行動であるということをお伝えしました。

では、実体経済の中で頑張って働く長期投資マネーのリターンの源泉はいったいどこにあるのでしょうか。

投資における「リターン」とは、投資収益(または投資収益率)を意味します。利益が出た時だけでなく、損失が出た時にもマイナスリターンとして使われます。

まず事業・ビジネスが実現する「成長」について考えてみましょう。世の中がもっと豊かで、楽しく便利になって、人々の笑顔や喜び、幸せや満足を増やすために、事業は努力を重ねていて、ビジネスとはどれだけたくさんのそうした「ありがとう」を社会に生み出すかの競争だと言うことができます。

そして「ありがとう」を創り出せば、その対価として人々はお金を払ってくれる。結果そこに携わる企業の売上が上がっていくわけです。こうした売上の伸びに裏打ちされて実現するのが利益であり、企業がビジネスを必死で頑張った末に生じる利益こそが、新たな富の創出と言えます。この企業の健全なる事業活動から富を生み出すチカラを、“本質的企業価値”と言います。世の中に「ありがとう」を増やすことによって利益も増えていく、つまり新たなる富を創出するチカラが大きくなっていくことを企業の成長と言うのです。

本物の投資とは、価格や値動きを追いかけることではなく、投資対象の価値を見極めること、要するに企業価値(利益を稼ぐチカラ)が大きくなっていくことが「成長」であり、成長力のある企業は、「成長」に伴って価値が大きくなっていくわけです。

長期で見れば、株価は企業価値に付いてくる

さて、ここからが大切なところです。価値が大きくなるとは、世の中に「ありがとう」を生み出すチカラが増えること。そして長期投資のリターンとは、「ありがとう」を増やして、増えた価値の部分から利益の分配を受けることなのです。長期投資マネーは、価値を大きくするために必要な資金という役割ですから、そのおかげで実現できた価値の増大からのお礼として、胸を張って堂々といただけるリターンなのです。「ありがとう」を増やすためにお金を投じて、世の中が豊かになって、豊かになった分からお礼を受け取るのが本物の長期投資! 長期投資はステキでカッコいい行動ですし、立派な社会貢献なのです。

実はここに重要なポイントがあります。それは「長期的には価格が価値に収斂(しゅうれん)する」という真理です。日々の株価は常に上がったり下がったりを繰り返し、デタラメな値動きを続けていますが、それも長期で見れば、ちゃんと本来あるべき価格水準に回帰していくという株価の習性のことで、企業の価値が大きく育っていけば、やがて株価も企業価値にふさわしい水準に動いていくわけです。

この真理から言えること、それは価値あるものに投資していれば、日々の値動きはどうでもいいことで、長期に投資を続けることによって、いずれお金はちゃんと価値に向かって育っていくという法則が、長期投資のリターンの源泉だということです。つまり「よい会社」の株価はいずれ上がる。だから、株を買うときは長期的な視点で見て、「よい会社」「価値がある会社」に投資してほしいのです。

例えば家具のニトリ。創業以来、良質な家具を消費者目線に徹して安く提供する努力を怠らず、どんどん生活者からの支持が高まり続けている会社で、長期にわたる利益成長と連動して株価も見事に右肩上がりです。

株式会社ニトリホールディングスの過去10年の株価の推移。「10年タームで見ても、1株当たりの利益の推移と株価の成長がリンクしており、会社としての価値が株価に表れていると言える」とは中野さんのコメント。

ちなみに僕の会社「セゾン投信」のキャッチフレーズは「いそがないで歩こう」です。これが長期投資家に最も大切な心構えであると気付いていただけたでしょうか?

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。