薬の大きさもその一つで、たとえ効能が以前の薬より優れていても、それだけでは医師の心には響かない。高齢者が多く訪れる医院なら、飲みにくい薬は処方しないかもしれないからだ。

【チームリーダーの必需品】名札、iPad、スマートフォンにメモ帳。メモホルダーにはかわいい形のクリップを常備。医師に資料を渡すときにさりげなく使用する。

「現場からの薬の評判や要望は、日頃からお医者さんと密に接している卸会社の方々がよく知っている。それは次に私たちが医師と話をするとき、とても大切な情報になるんです」

特に南北に細長い江戸川区は、病院や医師の特性が多様だという。北側の下町には高齢の患者とベテランの医師が多く、南側は若い年代の医師が多い傾向にある。MRに求められるのは、医師によってコミュニケーションの方法を変え、臨機応変に良好な関係をつくり上げていく力だ。

苦い経験を力に変えて

卸会社での朝のミーティングを終え、営業車を停めた駐車場への道すがら、「私も新人の頃は、お医者さんとのやりとりがうまくいかず、よく怒られたものでした」と彼女は笑った。

この薬は絶対に先生にヒットする。そう思って自信満々に話をしたら、「何を偉そうに」と言われたり、「忙しいから後にしてくれ」と追い返されたりしたことも。

「若い頃は独りよがりになりがちで、相手の状況を慮(おもんばか)れないものです。何度も怒られてその塩梅(あんばい)がわかり、だんだん一人前になっていく。この仕事に就いた誰もが通る道でしょうね」

貞光美貴(さだみつ・みき)
大阪府豊中市出身。2002年4月、武田薬品工業に入社。医薬営業本部のMRとして福岡県福岡市内と近郊の病院を5年担当した後、医薬研修室(東京本社)で新人研修などの講師を担当。13年4月より現職。管轄エリアは東京都江戸川区。

撮影=村山嘉昭