入社して8年半。最初はプライベートな予定まで書き込むことには抵抗もあった岩村氏だが、最近では、その効用のほうが大きいと感じている。

「誰が子どものお迎えに行かなければならないか、いつ空いているのかなども一目瞭然で、相互理解も進みますし、ごく自然と助け合えるようになります」

一人で静かに考えをまとめたいときは、カレンダーにDNS(Do not schedule. 邪魔しないでね)と書いておく。

家庭と職場をシームレスに行き来

「日本では、働く女性の約6割が出産をきっかけに会社を辞めています。その結果、女性管理職を増やしたくても、増やせない状況が続いている。時間と場所に縛られないフレキシブルな働き方ができるならば、出産後も仕事を続けたいと考える女性は多いはず。それを、私たちはテクノロジーで支援したい」と、岩村氏は言う。

APACブランド&マーケティング担当CMO マネージングディレクター 岩村水樹氏「テレビ会議の画面に子どもが映り込んでも、誰も気にしません」

社内外の働く女性を応援する活動を、グーグルでは「Women@Google(ウーマン アット グーグル)」と呼んでいる。岩村氏はそのリーダーでもある。彼女がしばしば使う「家族をチームに、チームを家族に」という言葉は、かつての日本的家族主義経営を思い起こさせる。しかし、2つは根本的に違うものだ。

グーグルに代表されるアメリカの先端企業は、働く個人に最大限の自由を与え、時間と場所の縛りから解放することで、組織へのコミットメントを高めようとしている。家庭を会社に取り込もうとするのではなく、テクノロジーを使い、従業員が家庭と職場をシームレスに行き来することができる環境を整えることで、組織としてのパフォーマンスを最大化しようとする。在宅で勤務することはあくまで日常的に許された選択肢の一つであり、特別に許可されたものではない。制度上ある「在宅勤務」とは、その点が大きく異なっている。

撮影=冨田寿一郎