先日、「中国経済の崩壊」がテーマのテレビ番組に出演した。そこである評論家は、海外を闊歩(かっぽ)する中国の観光客について「それは富裕層だけだ。農民はパスポートすら申請できない」と断言したり、経済活動を支える鉄道輸送量の成長率が7%になっていないことをその証拠として挙げて、昨年の中国経済の成長率が約7%という統計は偽造されたものだと主張していたことには閉口してしまった。

イラスト=Yooco Tanimoto

ここ十数年、トラックと自動車道、高速道路の発達により、中国の輸送事情は大きく変わっている。さらに、中国経済は重厚長大の伝統産業から電子産業や消費型の産業へ移行しつつある。

データをもって説明しよう。一つは中国の高速道路の総延長だ。2014年に11万kmを超え、世界1位を誇る。自動車道の総延長も446万kmとなり、米国に次いで世界2位である。

もう一つは、中国のEコマース関連の一連のデータだ。遊び心からできた中国のショッピングデーともいえる11月11日の「光棍節(独身の日、最近は双11節と呼ぶ)」には大型セールイベントが行われ、14年の「光棍節」の1日24時間の総取引額が前年実績の58億ドルを大きく上回る93億ドルに達した。「13年の米国の感謝祭(ブラックフライデーとサイバーマンデーを含む5日間)に記録した53億ドルをも大きく超える規模となった」とも報じられている。こうしたEコマース関連の物流はほとんどトラックと自動車道によるため、鉄道の輸送とはあまり関係がない。だから、鉄道の輸送量から中国経済の成長状況を間接的に判読するには、おのずと限界がある。

いまの日本には、中国経済の崩壊を議論する以前に、物事を的確に捉える目が失われているのではないか。

中国経済はいま大変厳しい局面に直面している。解決すべき問題も山積みだ。しかし、これで中国経済は崩壊するという結論にたどり着くのは短絡すぎる。私は現場主義だ。中国経済がこれから果たして崩壊するのか、それともすでに崩壊し始めているのか。すべては現場に答えがある。

莫 邦富
1953年、上海生まれ。85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続けている。
 

イラスト=Yooco Tanimoto