株式市場だけでは、中国は語れません。
私の作家活動を振り返ってみると、1997年以前は海外に出た中国人とその社会を観察して表現していたが、以降は中国国内の経済にテーマを変え、中国企業、中国国内の各地の経済事情、そして日本企業の中国進出事情などに焦点を絞っている。ハイアール、レノボ、自動車メーカーの長城、奇瑞、吉利などの中国企業をいち早く海外に紹介したり、中国各地の競争と成長状況を伝えたりしてきたし、中国経済を見る目がそんなに大きく外れていないところが今まで評価されてきたのでは、と思う。
そのため、中国経済に対して無責任な発言をする人も、そういう場を作るメディアもどうかと思っている。95年頃から「中国経済の崩壊」というテーマはずっと取り上げられているが、当時東京都のGDPにも及ばなかった中国のGDPは20年後の現在では日本の2倍以上にもなっているのが現実だ。
海外訪問者数の増加もその一端を示している。日本では海外旅行をしているのは中国の“富裕層”だと捉えているが、実はこれまで日本のメディアでいろいろと発言している私は、一度も中国の富裕層を取り上げたことはない。顧問を務める企業にも、一部の金持ちではなく、これから成長する“中産階級”に焦点を合わせるべきだとアドバイスしている。
たとえば、日本に殺到し、「爆買い」といった消費現象まで巻き起こしている中国人観光客の多くは中国でも一般の消費者だ。この現象の原因は主に(1)急激な円安により、日本の商品が安くなった、(2)日本製品の品質に対する信頼感が中国の国民レベルで浸透した、(3)所得向上により、中国の消費者が値段より品質を求めるようになった、という3つだと思う。
先日、「中国経済の崩壊」がテーマのテレビ番組に出演した。そこである評論家は、海外を闊歩(かっぽ)する中国の観光客について「それは富裕層だけだ。農民はパスポートすら申請できない」と断言したり、経済活動を支える鉄道輸送量の成長率が7%になっていないことをその証拠として挙げて、昨年の中国経済の成長率が約7%という統計は偽造されたものだと主張していたことには閉口してしまった。
ここ十数年、トラックと自動車道、高速道路の発達により、中国の輸送事情は大きく変わっている。さらに、中国経済は重厚長大の伝統産業から電子産業や消費型の産業へ移行しつつある。
データをもって説明しよう。一つは中国の高速道路の総延長だ。2014年に11万kmを超え、世界1位を誇る。自動車道の総延長も446万kmとなり、米国に次いで世界2位である。
もう一つは、中国のEコマース関連の一連のデータだ。遊び心からできた中国のショッピングデーともいえる11月11日の「光棍節(独身の日、最近は双11節と呼ぶ)」には大型セールイベントが行われ、14年の「光棍節」の1日24時間の総取引額が前年実績の58億ドルを大きく上回る93億ドルに達した。「13年の米国の感謝祭(ブラックフライデーとサイバーマンデーを含む5日間)に記録した53億ドルをも大きく超える規模となった」とも報じられている。こうしたEコマース関連の物流はほとんどトラックと自動車道によるため、鉄道の輸送とはあまり関係がない。だから、鉄道の輸送量から中国経済の成長状況を間接的に判読するには、おのずと限界がある。
いまの日本には、中国経済の崩壊を議論する以前に、物事を的確に捉える目が失われているのではないか。
中国経済はいま大変厳しい局面に直面している。解決すべき問題も山積みだ。しかし、これで中国経済は崩壊するという結論にたどり着くのは短絡すぎる。私は現場主義だ。中国経済がこれから果たして崩壊するのか、それともすでに崩壊し始めているのか。すべては現場に答えがある。
1953年、上海生まれ。85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続けている。