人の好感度に影響する「顔の表情」
もう一つ。前ページの「信頼」と「好意」の相関関係に次いで、笑顔やアイコンタクトが相手の好意とどう結びつくのか、という実験も見てみましょう。「好意の総計(total liking)」という実験で、当時私が勤務していた、実践女子大学の学生をモデルにしたものです。
この実験は、同じモデルが服装など一切変えずに、3種の言葉「ありがとう」「どうぞ」「どうも」を、「顔の表情」「声」の条件を変えて発声し、第3者がモデルのことをどう感じるのか、その印象を数値化した実験です。
実験(1)「ありがとう」の言葉を、下記のように「顔の表情」と「声」を変えてモデルが発声し、その様子を4パターンの動画にして被験者に見せました。
1.良い声×良い顔
2.良い声×悪い顔
3.悪い声×良い顔
4.悪い声×悪い顔
実験(2)「どうぞ」、実験(3)「どうも」も同様に4パターンを繰り返します。その上で、「あなたが好ましいと思ったのは何番の人物ですか?」「その理由は言葉ですか? 顔の表情ですか? 声ですか?」と質問します。その結果が下の「日本版好意の総計」データです。
日本版好意の総計(total liking)100%=
「顔の表情」60% 「声」32% 「言葉」8%
出典:佐藤綾子1995、「自分をどう表現するか」
同じモデルが「顔の表情」「声」「言葉(ありがとう/どうぞ/どうも)」を変えて話した時、相手はどのポイントで好意を持つのか。「言葉」と答える人がたった8%しかいないのに対し、「声」と答えた人は32%、「顔の表情」と答えた人は60%もいました。
ちなみにアメリカで同じ実験を行ったのは、心理学者マレービアン。実験手法は同じでしたが、結果は「顔の表情」55%、「声」38%です。日本人はアメリカ人より、「表情」の情報が優先されていますね。さてこれで大事なことが分かるでしょう。人は総じて、声の印象や言葉の意味よりも顔の表情で、その人物が「好きか、嫌いか」を判断する度合いが高いのです!
上の実験は一例に過ぎませんが、この連載では「姿勢」「動作」「顔の表情」や「アイコンタクト」など、非言語の重要性を紹介してきました。これらは全て、営業をするビジネスパーソンの自己表現のポイントです。
この連載はこれで最終回です。まずは、営業とは自己表現を上手に演出して「私を伝えること」そして「あなたを聞くこと(傾聴)」と割り切って、相手の目に映る自分の「第一印象(輪切りの自分)」が最高であるように毎日習慣づけていきましょう。
千里の営業の道は、あなたの自己表現の一歩からです。
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は昨年9月発売。