中学1年の頃、家族で訪れたヨーロッパのホテルでコンシェルジュという職業を知った。魔法のようにゲストの願いをかなえる彼らに憧れたが、慶應義塾大学社会心理教育学科で学んだ阿部さんが就職活動中、日本にコンシェルジュを置くホテルはなく、当然、募集もなかった。そこで当時、時代の最先端を走っていたパルコに入社。とても忙しく刺激的な2年を過ごしたのち、ソニー創業者の一人、故・井深大(まさる)氏が率いる幼児教育に関わる財団法人に転職した。
その後、新規オープンでコンシェルジュも募集していたヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルに就職。晴れて念願のコンシェルジュとしてキャリアをスタートさせた。しかし振りかえれば、10年間の回り道は流行の発信地の空気感と人間を育てる教育現場という貴重な経験を阿部さんにもたらした。その経験はすべてコンシェルジュの仕事に活かされている。
「私がコンシェルジュになった頃は日本にロールモデルがいませんでした。ですから今は、専門職としての責任や誇り、良い意味での意地を次の世代に伝えたい。また、ますます増加する外国からのお客さまに正しい日本の姿を知っていただくために、コンシェルジュができることを全力でやっていきたいと考えています」
1959年東京都生まれ。パルコ、財団法人幼児開発協会を経て、92年、ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルへ。2002年より現ホテルに移り、現在はロビーアンバサダー/コンシェルジュ。明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授。
撮影=大槻純一