人は困難の渦中にいる時、自分自身を客観的に見ることは難しい。資金繰りと会社の立て直しに追われ、「良い会社・利益を上げる店舗にする」というシンプルな命題も、その渦中では分からなくなるものだ。

混沌の最中、湯澤氏の身にはさらに、狂牛病騒ぎ、信頼していた社員の死など困難が続く。しかしその流れの中でも、彼は命題を見失うことはなかった。経営者として“変わっていく自分”と、“それでも変われない自分”を本書ではつづっている。

“変わっていく自分”と“それでも変われない自分”が、失敗や不運を招く。まさに、後悔と反省の繰り返しの書である。しかし、だから本書は信頼できるのだ。「死」も、「自己破産」も選択せずに生きてきた男の文章だから読み進めていく価値があるのだ。

2015年、湯澤剛氏は神奈川県下で14店舗の飲食店を経営しながら、中小企業経営者向けに、自分自身の経験を語る講演活動を続けている。辛辣極まりない経験をし、“変わっていく自分”を嫌悪し、“変わらない自分”を反省しながら生きてきた、その様子を語っている。

――この16年の間に、昔私が目標にしていた多くの会社や店がつぶれていった。実際にアドバイスをもらいに行った中にも、今はもうない会社もある。それなのに、あれだけ借金があってダメなところだらけだった湯佐和が、どうにか生きながらえて今も続いている。それが信じられない。(本書、第5章 「後悔も迷いも消えた日」より抜粋)

「どんなに頑張っても、完済には80年かかるでしょう」と銀行に告げられた日から売却と預金相殺を含む資産処分で13億を返済、16年間の営業利益で25.5億円を返済。完済はもうすぐだ。

“あきらめない勇気”と“しぶとく戦略的に生きる力”で、人生のおよそ3分の1を乗り越えてきた湯澤氏の生き方から、読者も必ず何かを感じ取れるはずだ。