歴史を重ね未来へ問いかける~アルメニア

島を散策すると、作品が空間に馴染むように屋内外に点在しています。声高に何かを訴えてくるというよりは、こちらから寄り添うと強い意志を持って語りかけてくる、そんな作品ばかりでした。

印象深い体験としては、図書室のような場所に配されていたニナ・カチャドリアン氏のビデオ作品です。インタビュー形式でカメラを見据えた1人のアルメニア人が単純な質問に答える映像なのですが、「あなたは普段、何語で話しますか?」という問いに対して、中年の男性が淡々と回答します。

ニナ・カチャドリアン氏の「Accent Elimination」。Photo by Sara Sagui
Courtesy: la Biennale di Venezia

両親が話すそれぞれの言葉、生まれてから各地を転々とした生い立ちや、妻や子どもとも主たる言語が異なる事情など、結果的に数カ国語を獲得してきた人生を通して、どういう歴史を背負った民族なのか、徐々に明らかになります。

作家であるニナ・カチャドリアン自身もアメリカで生まれ育っていますが、アルメニア人の父親とスェーデン系フィンランド人の母は、ベイルートで出会っています。この作品を見ていると、異国の知と信仰に満ちた清らかな空間で、1人の見知らぬアルメニア人と深い対話をしているような錯覚に陥りました。

そして、この物語の続き=未来も気になります。暗く重いテーマながら、各展示や空間の凛とした美しい佇まいに自然とひき込まれます。世界中に離散した民族の子孫がアートを通じ、人類に宿る普遍的な業をさらけ出し、未来に向けて踏み出そうとしている意志を強く感じました。