東京の下町にある彼女の実家は、オートバイの販売店を営んでいる。幼い頃から、ポロシャツにスラックスという姿で、汗だくになってバイクを整備する父親の姿を見つめてきた。手に取るように修理の必要な箇所を見つけるその様子は、彼女にとってちょっとした憧れだった。大学の工学部を卒業して全日空に入社した際、整備部に配属されたと伝えると、「本当に大丈夫なのか?」と心配そうに言われたものだ。

「実際の整備に携わって人の命を預かる仕事の重さを知り、父の偉大さをあらためて感じました」

整備部での5年間は、彼女のこれまでのキャリアの土台となるものだ。

現場に出るときは、ヘルメットと安全靴が必需品。ヘルメットの色は部署によって異なる。電装整備課は青。

全日空の航空機の機体は機種にもよるが、一般的に20~30年で退役を迎える。その間、機体のチェックは日常的な予防整備のほか、C整備と呼ばれる重整備が定期的に行われる。配属された電装整備課では、機体に張り巡らされた電線網の全体を担当していた。

「最初はエンジンの大きさ、内部のワイヤの配線の多さと複雑さに驚きました。膨大な線のすべてに役割と名前があって、『私はこれをすべて説明できるようにならなきゃいけないんだ』と怖かったくらいです」

全日本空輸 整備センター 部品事業室装備品生産業務部 生産技術チーム 新井貴子
1981年、東京都出身。芝浦工業大学工学部を卒業後、2004年、全日空に総合職技術職として入社。ドック整備を経験後、技術部客室チームで2年勤務し、産休を取得。現在は部品事業室にて活躍。育休から復帰後は時短で勤務している。

向井 渉=撮影