ウチはウチ、ヒトはヒト

小さいころ、ピアノを習っている友だちがうらやましくて、私もやりたいと父にお願いしたことがありました。父の答えは「ピアノが弾けるようになっても、レスリングは強くならん」

ポケットベル(古くてすみません)がほしくて「友だちもみんな持ってるよ」と言ったときは、「友だちがなんだ、ウチはウチだ」と怒鳴られました。

二人の兄も私同様に小さいころからレスリング漬けでした。剣道や野球をやりたいと反発しても一切聞いてもらえなかったのは、私のピアノと一緒です。

子どもが小さいときは、その子にどんな可能性があるかわからないので、いろいろなことをやらせたほうがいいという考え方があることも、父だってもちろんわかっていたと思います。

でも、吉田家に生まれたら、やっぱりレスリングなのです。

ウチはウチ、ヒトはヒト。みんながやっていることが正解ではない、吉田家には吉田家のやり方がある。まったくぶれずに信念を貫いた父は、ある意味すごい人だと思います。

おかげで私は友だちと遊ぶ時間もなく、ひとすらレスリングに打ち込む青春時代を送りました。

でも、その結果「霊長類最強女子」という最高の勲章を手にすることができたのですから、父には感謝の気持ちしかありません。

吉田家に生まれてよかった。いまは心の底からそう思っています。

※このインタビューは『迷わない力』(吉田沙保里著)の内容に加筆修正を加えたものです。

取材構成=山口雅之 写真=公文健太郎