信頼関係がすべて

そんなふうに働いていたある日のこと。これまで全く口を利いてくれなかった1人の職人さんから、ぽつりと「現場、作業しやすくなったよ。ありがとう」と言ってもらえたんです。今から振り返れば、現場監督としての私の本当のスタートはその瞬間にあったように思います。

以来、休み時間のコミュニケーションなども積極的に行うことで、職人さんとも少しずつ対等に話せるようになっていきました。例えば、夏場になると現場は本当に過酷な暑さなので、ヘルメットを被らなかったり、長袖の着用をしていなかったりという職人さんが出てくることがあります。入社当初はすぐには指示を聞いてもらえなかったけれど、その頃からは「今日はちゃんと長袖着てるからさ」「ヘルメットかぶってるよ」と先に言ってもらえるようになって。

私たちの仕事は腕のある大工さんや様々な職人さんに頼んで、家を建ててもらうことが大前提なので、信頼関係がすべてみたいなところがあるんです。お客様から何かの要望があったときも、職人さんと信頼関係が築けているからこそ、どんなに忙しくても「仕方ねえなあ」と仕事をしてもらえる。

そういう関係が築き上げられていくと、最初はつらいことがあった仕事もとても楽しくなっていきました。一度打ち解けてしまえば、みんな技術とプライドを持った素晴らしい人たちですから、一緒に働いていると本当にやりがいがあるんです。

だから3年が経って設計の部署へ異動したときは、あと1年か2年くらいは現場にいたかったな、と寂しさを感じたくらいでした。