「女性ならでは」というプレッシャー

大和ハウス工業 横浜北支店 集合住宅工事課の日下淳子さん。現場監督として、賃貸住宅の工事現場を担当。

現場での仕事をうまく管理できるようになってきたのは、入社して1年くらいが経った頃のことでした。

当時の私は「とにかく現場に入ったら自分のできることをするしかない」と心に決めて、掃除や片づけばかりをしていました。本来、そうした清掃作業も含めて仕事をお願いしているわけですから、上司からすれば「それはうちの仕事ではない」という思いもあったかもしれませんが、そんなことを言ってはいられませんでした。

建設現場では工程のスケジュールが厳しく管理されているので、期日が差し迫ってくると清掃が行き届かず、切った板がそのままになっていたり、釘が落ちていたりする場合もあります。それを率先して片づけていけば、職人さんたちも作業がしやすくなるのは間違いありませんし、作業の安全性を高めることにもつながるはずですから。

それからもう一つ、私には現場の掃除にこだわる理由がありました。あの頃はまだ女性の現場への進出が社内でも始まったばかりだったので、「女性ならでは」と思われるような付加価値を暗に求められる雰囲気があったんです。

なので、同期の男性社員と同じレベルの仕事ができても当たり前、それ以上に何かを現場に付け加えなければ、この先のキャリアを生き残っていけないかもしれない、というプレッシャーを感じていました。その一つが現場をとにかく整理整頓して、上司や先輩に「日下さんの現場はきれいだね」と言ってもらうことだったんです。

信頼関係がすべて

そんなふうに働いていたある日のこと。これまで全く口を利いてくれなかった1人の職人さんから、ぽつりと「現場、作業しやすくなったよ。ありがとう」と言ってもらえたんです。今から振り返れば、現場監督としての私の本当のスタートはその瞬間にあったように思います。

以来、休み時間のコミュニケーションなども積極的に行うことで、職人さんとも少しずつ対等に話せるようになっていきました。例えば、夏場になると現場は本当に過酷な暑さなので、ヘルメットを被らなかったり、長袖の着用をしていなかったりという職人さんが出てくることがあります。入社当初はすぐには指示を聞いてもらえなかったけれど、その頃からは「今日はちゃんと長袖着てるからさ」「ヘルメットかぶってるよ」と先に言ってもらえるようになって。

私たちの仕事は腕のある大工さんや様々な職人さんに頼んで、家を建ててもらうことが大前提なので、信頼関係がすべてみたいなところがあるんです。お客様から何かの要望があったときも、職人さんと信頼関係が築けているからこそ、どんなに忙しくても「仕方ねえなあ」と仕事をしてもらえる。

そういう関係が築き上げられていくと、最初はつらいことがあった仕事もとても楽しくなっていきました。一度打ち解けてしまえば、みんな技術とプライドを持った素晴らしい人たちですから、一緒に働いていると本当にやりがいがあるんです。

だから3年が経って設計の部署へ異動したときは、あと1年か2年くらいは現場にいたかったな、と寂しさを感じたくらいでした。

現場に性別は関係なし!

現場の仕事の醍醐味は、本当に何もない更地に建物を実際につくっていく、という手応えがあることです。つい3カ月前は何もなかった敷地に、人の力で住宅が建てられ、いまは家族が住んで生活を送っている。何度経験しても、それはすごいことだなって純粋に思うんです。とりわけ30軒くらいの分譲住宅などを担当すると、それこそ小さな街ができていくわけですから。

それに異動した後も、3年間にわたって現場を学んでいたことが、図面を引く上でとても役に立ちました。お世話になった職人さんにアドバイスを直接もらい、現場の声を踏まえながら設計に携われることは、仕事をしていく際に私の大きな強味になったと感じています。

そしていま、賃貸住宅の現場に戻って働いていると、自分も知識と経験をそれなりに積むことができているんだなと感じます。今度は職人さんたちとのやり取りもかなり早い段階からスムーズになりましたし、毅然とした態度で仕事に臨むことができたんです。現場に入ったら男性も女性も関係なく働く、という感覚を抱けるようになってきました。

今後、大和ハウスでも女性の現場監督がさらに増えていきます。しかし、しばらくの間は、この世界が男性中心の職場であることに変わりはないでしょう。だから、その誰もが最初は私のように壁にぶつかるはずです。

そんなとき、最初から無理だと諦めずに、とにかく自分にできることをやる。それが仕事なんだ、という自負を持って立ち向かう。後輩たちにはそんなふうに自分で道を切り開いていくことの中から、自信を身につけていって欲しいと思っています。

●手放せない仕事道具
手帳、メモ、デジカメ、巻尺、子どもの写真。現場で気づいたことはすぐにメモを取る習慣がある。

●ストレス発散法
車で海に行き、子どもと砂浜で遊ぶこと

●好きな言葉
明日は明日の風が吹く

大和ハウス工業 横浜北支店 集合住宅工事課 日下淳子(くさか・じゅんこ)
1974年宮城県出身。97年東北工業大学 建築学科卒業後、大和団地(現・大和ハウス工業)入社 東北住宅営業所 住宅工事課に配属。2000年仙台木造住宅営業所 設計課。01年大和ハウス工業 仙台木造住宅営業所 設計課。その後、関東木造支店・技術本部などで分譲住宅や街づくりなどの設計に携わる。08年横浜北支店集合住宅工事課。11年からの育児休業を経て13年より現職。