出生前検査全体に認定システムを

東尾理子さんが受けた検査として有名になった「クアトロテスト(母体血清マーカー)」も、比較的多くの施設で長くおこなわれてきたが、やはり正確な実態は不明だ。クアトロテストは母体の血液検査で安全なので一般の妊婦健診の中で情報が提供されることもある。開始当初は、実は精度は低い検査なのに「簡単にダウン症がわかる検査ができた」といったニュアンスで説明されてしまい、ビジネス化した面もあったと言われている。今回、NIPTが慎重に始められた理由のひとつは、関係者の間に「母体血清マーカー検査のと同じことは繰り返せない」という警戒心があったからだ。

国立成育医療研究センターの左合治彦副院長らが2013年に報告した推計値では、全国で羊水検査は約2万件、母体血清マーカー検査は約2万2千件。NIPTが実施された8千例弱については詳細に追求されているが、出生前検査全体に視野を広げると、どこでどのようにおこなわれているのかわからない検査の方がはるかに多い。

出生前診断は赤ちゃんの命に関わることであり、陽性という結果が出れば、その瞬間からそれまで幸せだった夫婦に強烈な苦痛が襲いかかるかもしれない。母体血の検査は簡単なようだが、それで染色体異常がある可能性が高いと言われた女性たちは、その時のつらさを振り返って「地獄だった」「もう二度と味わいたくない」と言う。擬陽性があるので確定するには羊水検査もしくは絨毛検査が必要になるが、その決定や、検査結果が出るまでの時間がとてもつらいと言う。

NIPT予約で苦労する人は大変だと思うが、出生前診断には、やはり規制や透明性が必要だ。早く遺伝カウンセリングの問題を解決し、出生前検査全体が社会から見えるものになってほしい。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com