驚きの研究報告

妊娠を考えている人の中には、「妊娠したら出生前診断を受けるのだろうか」と悩んでいる人もいることだろう。2013年4月、血液検査でダウン症、18トリソミー症候群、13トリソミー症候群が高い精度でわかる「新型出生前診断」が導入されたことで、胎児の先天異常が気になる人は増加傾向にある。

この検査についてどう考えるかは、その人の生命観、倫理観の違いによって意見が分かれる。と同時に、これは案外と技術の進み具合に強く関係している。

第一に、検査の精度が問題にされているが、これは今後さらに上がることが確実と見られている。だから精度に注目していると状況はどんどん変わってしまう。そして、技術革新が変えるのは診断の技術だけだろうか。「治療」はどうだろう? 第二に考えてみたいのは、見つかった異常に対して治療法が確立されれば、検査の意義は変わるということだ。

最近、新しい本のために出生前診断について数人の医師と話したのだが、驚くべきことを知った。海外では最近、ダウン症胎児の「出生前“治療”」についての研究報告が出てきたという。

米国・タフツ大学のダイアナ・ビアンキ教授らのグループは、ダウン症のある子どもの神経発達は胎内で通常より強く酸化ストレスにさらされていると報告している。もし、酸化ストレスが脳細胞にダメージを与えるのを防ぐことができれば、知的な面で障害を軽くする出生前治療が可能になるかもしれない。

染色体自体を変える技術については、まだ人類は発想の糸口すらつかめていない。しかし、異常があることで二次的に起きてくる問題については、医療技術によって防止策、緩和策を開発することが可能だ。それも、臓器や組織ができあがる以前に働きかけることができれば効果はより大きいと考えられる。

また、ダウン症の人は正常な染色体を持っているのに、ただ1本多いだけでさまざまな症状が出ていると考えられている。それなら、その1本が働かないようにしようという研究も始まっているそうだ。