「胎児手術」という第三の選択肢

そもそも胎児の先天異常は実にさまざまなものがあり、治療ができるものも多い。ダウン症は出生全体の0.1%しか発生していなくて、先天異常全体の割合はというと3~5%の子に見られる。先天異常の大部分はダウン症以外のもので、染色体は正常な子の方が多い。

その多くは一般的な妊婦健診の超音波検査で見つかり、その時点で新生児集中治療室(NICU)もある病院へ転院することも多い。手術が有効な場合は、一般的には出産後に新生児専門の外科医の手術を受ける。

もしくは、これは日本ではまだあまりおこなわれていないが、病気によっては、子宮の中にいる状態のまま「胎児手術」を受けるという方法もある。米国で多数の胎児手術を経験してきた外科医の千葉敏雄医師(成育医療研究センター)によると、胎児手術は、今の欧米では安全な方法が開発され、傷が小さくてすむ内視鏡手術も始まっている。胎児に大きな先天異常が見つかった場合、今は何もしないで出産を待つか、その子をあきらめるか、ふたつの選択肢しかないが、胎児手術は「第三の選択肢」になり得るという。

出生前検査が治療のための検査に

まだ先のことだろうが、いつの日か、新型出生前診断もダウン症の子どもがタイミングよく良い治療を受けるための検査になるかもしれない。知的障害の度合いは必ずしも幸せを決めるものではないだろうし、ダウン症は個性であるという観点に立てば治療という表現も適切かどうかはわからない。今、ダウン症を持つ子どもを育てている人は、その子のありのままを愛しているからだ。でも、何かできることがあれば、未来に生まれるダウン症の子どもたちは就ける職業の選択肢などが増え、社会でもっと活躍できるのかもしれない。

私たちは今、診断ばかりが進んでしまって治療が追いつけていないこと、不確かさ、危険性などにとても悩んでいるし、治療法ができても、当分は治療の危険や負担の問題に悩むのだと想像される。難しい選択肢が増えれば、「いっそのこと、妊娠中は何もわからない方がいい」と思う人も増えそうだ。

ただ、先天異常の子どもたちの診断だけが進むのは明らかにおかしい。出生前検査が効果的な治療をおこなう未来も目指しているのなら、それは医療だ。

前述の千葉医師は、このほど一般社団法人「未来の胎児と医療を考える会」(https://miraitaiji.org/)を設立し、最初のシンポジウムが2014年3月14日(金)の夜に東京都千代田区で開かれる。海外の状況や治療も含めた最新動向が知りたい方には貴重な場だ。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com