――『女友だちの賞味期限』には、作家志望の女性が、病気で苦しんでいるとき、駆け出しのアーティストである友人が、その病気をテーマにした作品を作って個展を開いた、という話が出てきます。作家のほうは、自分の主題であるべきものが、横取りされたことに、今も釈然としないものを感じている……。
『女友だちの賞味期限』プレジデント社刊

自分の病気のことを文学のテーマにすることは、アーティストである友だちが先にそのテーマで作品をつくった後でもできたことですよね。「この物話は、アーティストの誰それの作品にインスピレーションを与えた」とPRしてもいいわけだし。テーマを取られたことで友情がこわれたと嘆く前に、自分なりのやり方で表現できたらよかったのになと思いますね。

結局、人が経験することは、誰の経験であってもすべて、人間の「共通の経験」になるんですよ。いくら「これは私だけの経験」と言ってもね、たとえばアンネ・フランクが 「これは私の経験だから、私以外の誰にも語らせない」とは言えないでしょう。

――この作家が病気になった当時、2人は大学院生でしたが、あと何年か人生経験を積んだ後だと、違う展開になったかもしれませんね。

若い人は、トラブルにあったり、もめたりしたときに、ちょっと我慢して様子を見ようというような忍耐強さが足りない気がします。友だちができない、恋愛する人に出会えないという悩みを持っている女性たちは、いきなり100%の関係を求めていることが多い。

自分を絶対幸せにしてくれる恋人とか、絶対に信頼できる大親友とか。それをはじめから求めるということは、ハズレの宝くじは絶対に買いたくない、と言いながら300円持って、宝くじ売り場に並んでいるようなものですからね。

いい人間関係のためには、忍耐強さと、友人に対する、少しさめた見方が必要じゃないかな。人間は、一人で生まれ、一人で生きていくものなのだから、せめて生きている間ぐらいは、それぞれ思いやりを持とう、という自覚を持つことが、お互いに自立しているということじゃないかと思います。