雑談が苦手な人が「予習」すべきこと

ビジネスや社交の場で雑談が苦手な場合は、ニュースを予習しておくことをお勧めします。

私も日々のヘッドラインは必ず確認し、「これはどうなっているのか」と簡単に目を通すようにしています。対象は国内外の重要ニュースで、政治や経済、災害など社会的影響の大きい情報から確認します。また、私は仕事柄、著名人の訃報も話題として押さえておきます。

ニュースをすべて深く理解する必要はありません。たとえば「最近ニュースで見たのですが、実際はどうなのでしょう?」と軽く尋ねるだけで、相手が専門領域について話す機会を作ることができ、好印象につながります。

実務的には、テレビでCNN(※5)やFOX(※6)などのニュース番組をつけっぱなしにし、ヘッドラインが流れたら内容を確認する習慣を持つと効率的です。さらに、スマートフォンのアラート機能を使えば、緊急ニュースやブレイキングニュースもリアルタイムで把握できます。忙しいときは、移動中にYahoo Newsのトップ記事の見出しをチェックするだけでも十分です。数件程度でも会話に安心して使える話題が準備できます。

こうしてニュースを活用することで、会話の際に適切な話題を持ち込み、準備不足による沈黙や会話の停滞を防ぐことができます。

伝説の外交官の「見えないカード」

雑談には季節の話題やニュース以外にもよく効く「見えないカード」があります。スポーツです。加藤良三 元駐米大使(※7)のエピソードはその代表例です。加藤大使は野球好きで、まるで解説者のように豊富な知識を持っていました。アメリカの政府高官には野球ファンが多く、連邦議会や各省庁では野球チームまで結成されています。加藤大使は対抗試合の機会などを通じて高官たちと交流し、家庭やプライベートの話題を交えながら会話を弾ませました。

ビューカー清美『世界一流の社交術』(アルク)
ビューカー清美『世界一流の社交術』(アルク)

「私はボストン・レッドソックスのファンなんだ」
「息子がリトルリーグで各州を回っているんだ」

こうした日常の会話を通じて、仕事では知り得ない人となりや価値観を理解できるようになります。ブッシュ第41代大統領も、かつてMLB(メジャーリーグベースボール(※8))のテキサス・レンジャーズのオーナーだったことから、野球の話で盛り上がったことはよく知られています。スポーツは単なる娯楽ではなく、公式外交を柔らかくつなぐ橋となります。

加藤大使の場合も、野球を通じて日本人選手や日本企業を話題に挙げ、アメリカ人との共通点を増やすことで、「日本好きを増やす社交戦略」を自然に実践していました。地域や文化への理解を深め、共通の関心を築くこと。それ自体が、外交活動の基盤であり、ソフトパワー外交の一端を担っているのです。

※5:1980年に設立されたアメリカのニュース専門テレビ局で、24時間体制で国際・国内ニュースを報道し、世界中の視聴者に情報を提供する。
※6:アメリカの民放テレビネットワークで、ニュースから娯楽番組まで幅広く放送。政治ニュース番組も多く、保守的視点の報道で知られる。
※7:2001年から2008年まで在アメリカ合衆国特命全権大使を務める。長期にわたり日米関係の強化に尽力し、経済・安全保障分野での協力推進に関与。在任後も講演や執筆を通じて国際関係の理解に貢献している。
※8:アメリカのプロ野球リーグで、ナショナルリーグとアメリカンリーグの2部制で構成される。

ビューカー 清美(びゅーかー・きよみ)
在米国日本大使館 ソーシャル・セクレタリー

メリーランド・ノートルダム大学(Notre Dame of Maryland University)卒。1994年、世界政治の中心地ワシントンDCにある在米日本大使館・儀典班(プロトコール)に現地採用される。ソーシャル・セクレタリー補佐、大使特別補佐、副ソーシャル・セクレタリーを経て、2000年より現職。30年以上にわたって要人接遇のほか、国家行事や外交レセプションの企画・運営に従事。これまでに計9人の駐米日本大使と大使夫人の下で勤務する。経験豊富なプロトコール実務家として知られ、2018年には「サロニエール100(The Salonniere 100)」において、全米の社交界で活躍する100人に選ばれる。