企業都合のキャンセルを誘発する独自ルール

一方で企業から一方的にキャンセルされたうえ、賃金も支払われないといったトラブルが各地で相次いだ。ワーカーにとって、特に直前のキャンセルは予定していた収入が得られないだけでなく、そこから別の仕事を探すことも難しく、まさに踏んだり蹴ったりの状態である。

トラブルが頻発した背景には「企業との労働契約は、ワーカーが出勤時にスマホでQRコードを読み込んだときに成立する」という、アプリ事業者主導でつくられた業界の“独自ルール”があった。解釈次第では、ワーカーが勤務場所に着くまで労働契約は存在しないという、企業にとって都合のよいルールになりかねず、実際、安易な企業都合のキャンセルや、直前キャンセルを誘発することになった。

こうした事態を受け、厚生労働省は2025年7月、労働契約成立のタイミングは、原則ワーカーと企業がアプリ上でマッチングした時点との見解を示した。また、アプリ事業者らでつくるスポットワーク協会も同年9月以降、ルールの厳格化を進めてきた。

被害者たちが「全国初」の集団訴訟へ

さらに同年10月以降は、ワーカーが個別の企業に未払い賃金の支払いを求める訴訟が、少なくとも3件起き、いずれも支払いを命じる判決が出ている。

一方で同様の“キャンセル被害”に遭った多くのタイミーワーカーたちの賃金は未払いのまま。かといって代理人を立てた個別訴訟は、手間や費用を考えると、得られる“成果”は限定的だ。加えて冒頭で紹介したAさんによると、今も違法性が疑われるキャンセルはなくなっていないという。

そこでAさんは2026年4月、複数のワーカーとともにタイミーを相手取り、東京地裁への集団訴訟に踏み切った。

訴状などによると、訴えたのは東京都や神奈川県など1都4県に住む20〜60代の9人。2021年10月〜26年3月、タイミーアプリを通してマッチングが成立したが、その後、企業側の都合による一方的なキャンセルを計197件(提訴時は計135件)受けたという。未払い賃金と慰謝料などを合わせた総額約351万円(同総額約312万円)を請求している。アプリ事業者を相手取った集団訴訟は全国で初めてだという。