最後の登校日は派手さマシマシ
翌朝、校長は挨拶の内容を打ち合わせるために校門の前で千代を待っていたが、登校してきた彼女の姿を見て腰を抜かさんばかりに驚いた。いつも以上に濃く念入りに化粧をしている。結った髪を桃色の結綿でまとめたヘアスタイルや服の柄はいつも以上に派手で、カフェーの給仕や芸者のようにも見える。
反省の態度を示すために、教師らしく清楚で地味な服装で現れるだろう……と、思っていた校長の期待は裏切られる。解雇が不服で反抗的になっていると勘繰った。このまま挨拶させれば、生徒たちを前に何を言いだすかわからない。人前に出したら危険と判断し、用務員室の小部屋に連行して監禁した。
千代は放課後まで人目にふれぬよう用務員室に閉じ込められて、追い払われるようにして橋を渡り村から追放される。恋人の男性教師とは一度も会うことができず別れることになった。そのことだけがとても心残りだった。
恋した男に見てもらいたかった
解雇は仕方がないと千代は納得している。それだけのことをやらかしたという自覚はあり、校長や学校に恨みはない。派手な化粧や服装も意趣返しが目的ではなかった。
「ただ、あの先生に一目だけ会いたい、会ってあの人に、『何て可愛い人だ。ほんとにきれいな人だ。』と思われたい一心で」(『私のお化粧人生史』)
愛した人ともこれでお別れになるのだから、自分のいちばん綺麗な姿を彼の目に焼きつけておきたいという、いじらしい乙女心だったのだが。最後の願いも叶わず、誰もいない夜道をひとり寂しく歩いて村を出てゆく。足が重くて歩くのが億劫になってくる。これまで幾度も歩いた川西の実家までの8キロの道程が、一番遠く辛く感じられるのだった。
大阪芸術大学卒業。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。著書に『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社)、『牧野富太郎~雑草という草はない~日本植物学の父』(角川文庫)などがある。
