「時短の人」はやる気がない?

そもそも、米国やアジアの企業には、「時短勤務制度」がある会社は、ほとんどないと聞きます。

それを捉えて、時短勤務がここまで普及した日本の会社は、「制度は各国以上に整っている」とエバっていますが、違和感を抱かずにはいられません。

もしかしたら、米国企業はそもそも時短という制度を置かずにも、定時キッカリに帰っても仕事の中身さえシッカリしていればお咎めなしの賃金決定システムや評価制度が整っているからではないでしょうか?

実際、私は最近ある米系の巨大企業を取材しましたが、そこの会社は、社員の評価基準や職務範囲、責任範囲が明確で、なおかつ、在宅勤務など柔軟な働き方を認めています。そのため、時短制度はあるにも拘わらず、これを取得する女性社員はほとんどいないそうです。

それに比べて、日本の会社は女性社員が時短を取得すると、おうおうにして査定を下げられてしまうのはなぜなのでしょうか?

家に仕事を持ち帰ってまでして熱心に働き、並の社員より成果を出している人でも、「時短の人」になった瞬間、「戦線離脱」と思われてしまうのは、どうしてでしょうか?

それは、日本の会社の賃金決定システムや評価制度が曖昧だからだ、と考えずにはいられません。

よく、労働の専門家たちは日本の会社の評価は「やる気査定」だと言います。

賃金決定のベースは年功制で、プラスアルファの部分は人事考課の反映だが、その人事考課のマル・バツは、「やる気」、あるいは組織や上長への「忠誠心」で決まるというのです。

人のやる気や忠誠心を測るのは難しいから、ついつい、労働時間の長さで測られがちです。そこへいくと、夕方、サッサと帰るような奴は、「やる気がない」と判断されてしまうのです。

しかし、アルバイト学生じゃあるまいし、いい年のホワイトカラーの評価や賃金が時間で決まるとは、おかしいとは思いませんか?

現在、「時短の母」が受けているような「パートタイム差別」は、日本の会社が、労働時間を厳密に守れば、解決するし、たとえそれが無理だとしても、労働時間の長短ではなく、仕事のパフォーマンスで評価する仕組みさえ整えば、なくなる問題です。

私が尊敬するある労働の専門家は、「今、日本の会社で成功しているワーキングマザーは、『スカートをはいた男』か、『親と言う名のメイドを抱えている』か、どちらかしかない」と仰いました。

そんな、状況が続くのは、健康的ではないし、子どもの教育に手抜かりはないかを考えると、日本の将来にとって、それが必ずしもいいことだとは到底思えません。

日本の会社は、いい加減、「長時間労働の呪縛」から解放される時期なのではないでしょうか。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。