「悪趣味アイテム」に大金をつぎ込む病理

この「視覚的ノイズ」を身にまとう心理の根底には、極めて歪んだ自己顕示欲とマウンティングの構造が横たわっている。

彼らは、ただ奇抜なだけの安物を着ているわけではない。誰もが知る超一流ブランドの、目の玉が飛び出るほど高額な「悪趣味アイテム」を身につけることに意味がある。「こんなに不気味で難解なデザインの靴や、汚れたように見えるスニーカーを、あえてハズし技として着こなすことができる知性と、それに数十万円をポンと出せる財力がある自分」を誇示しているのだ。

SNS上でその奇抜な姿を投稿すれば、必ず「どうやって歩くの?」「ダサくない?」「不気味だ」「汚い」といった否定的なコメントやツッコミが寄せられる。

しかし、アテンション・エコノミー(関心経済)に支配された現代社会において、批判や炎上は「強力なエンゲージメント(反応)」と同義である。無関心で素通りされるくらいなら、不格好だと言われてでも注目を浴びたい。他者からのツッコミを待つという、この歪んだコミュニケーション手段こそが、現代の「なんちゃって富裕層」が陥っている病理の正体である。

ハサミを持たないクリエイターの台頭

こうした消費者の病理的な承認欲求を、ブランド側は冷徹に見透かしている。いや、むしろブランド側が積極的にSNSのアルゴリズムをハックし、消費者を踊らせていると言った方が正確だろう。

その象徴が、老舗メゾンのトップ(クリエイティブ・ディレクター)人事の地殻変動である。

レースを裁断している手元
写真=iStock.com/Rossella De Berti
※写真はイメージです

かつてハイブランドのトップに立つのは、専門的な服飾学校でテーラリング(仕立て)の基礎を徹底的に学び、下積みから這い上がってきた熟練の職人(デザイナー)たちであった。

しかし現在、その席に座っているのは、ハサミを持たない若きクリエイターたちである。

例えば、現在のルイ・ヴィトンのメンズ部門を率いているのは、グラミー賞を14回受賞した世界的ミュージシャンであり、音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスだ。その前任であり、ハイブランドの「ラグジュアリー・ストリート化」を決定づけた故ヴァージル・アブロー(2021年没、享年41歳)も、元々は建築学修士号を持ち、カニエ・ウェストのクリエイティブ・ディレクターやDJとしてキャリアを築いた人物である。

この現象はルイ・ヴィトンに限った話ではない。フランスの老舗メゾン「KENZO(ケンゾー)」のアーティスティック・ディレクターには、日本のストリートファッションの立役者であり、DJや音楽プロデューサーとしても活動するNIGOが抜擢されている。

彼らは美しいジャケットのパターン(型紙)を引く技術によってその地位を手に入れたわけではない。彼らが持っているのは、何千万人という自身のフォロワーと、音楽業界やストリートカルチャーのVIPたちを巻き込んで「世界的なバズ(話題)」を起こすプロデューサーとしての圧倒的な能力である。