他者との“関係性の束”を大事にする保育

塩崎は、こうした取り組みを独自の表現で説明する。

「やまなみが大切にしているのは、“関係性の束”なんです。複数の他者との“関係”が“束”のように集まって一人ひとりの人間は存在しています。その“関係性の束”のような人間が集まってコミュニティをつくる。一人ひとりの子どもがお互いに影響を与え合いながら育っていきます。

だからやまなみでは子どもをバラバラに見て、個々の成長だけを考えることはしない。個別に異なる子どもたちのお互いの関わりを重視して、多様な“関係性の束”が子どもの中に育つのを待つ。

緊張感の高い子どもが筆を持ちたくなるのは誰といる時か、目の見えない子どもがスムーズに着替える時の周りの子どもたちの振る舞いはどうなっているのか。

つまりやまなみがはぐくんでいるものは、個体としての子どもの能力ではなく、不確実性を含むコミュニティの“関係”でしょう。流動的に変わっていく子ども同士の関係が、平和や民主主義を実現していく。やまなみの保育実践からは学ぶことばかりです」

やまなみこども園では、子どもたちが毎日のように全員で一つの目標を設定し、力を合わせてそれを成し遂げる体験をくり返しているので、だんだんと発達障害が目立たなくなるばかりか、不得意だったことも学年が上がるにつれて難なくこなせるようになる。

走る子どもたちと見守る女性
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです

自己肯定感や向上心につながる体験

似たようなことは、身体障害や知的障害にも当てはまる。

『少子化に打ち勝った保育園 熊本「やまなみこども園」で起きた奇跡』(新潮社)
石井 光太『少子化に打ち勝った保育園 熊本「やまなみこども園」で起きた奇跡』(新潮社)

かつてほとんど視力がない弱視の男の子が在園していたことがあった。両親も目に障害があり、市外に住んでいたが、どうしてもやまなみこども園の環境で幼少期を過ごさせたいと熱望し、毎日タクシーで送り迎えをした。

先生たちは、視覚障害の子の受け入れは初めてだったので手探りの状態だった。すると、周りの子どもたちが男の子に歩み寄り、「まったく見えないの?」「影くらいは見える?」などと本人に聞いて障害の程度を把握すると、自分たちから遊びに誘った。

みんなで話し合って彼にできそうな遊びを提案し、実際にやってみて難しければ手を貸したり、相談してルールを変えたりした。

そうこうしているうちに、男の子の方も友達と一緒になって同じことをする楽しさを知り、何事にも前向きに挑戦するようになった。

友達に教わって楽器を弾けるようになったり、折り紙や粘土遊びができるようになったりした。園の行事にも積極的に参加して周りを驚かせることもあった。表情にもどんどん自信がみなぎっていった。

こうした体験が、彼にとって大きな自己肯定感や向上心につながったのだろう。卒園する頃には他の子とほとんど同じことができるようになり、義務教育を経て大人になった現在は、一般社会で医療関係の仕事に就き、結婚して子どもをもうけている。

そしてその子どもも父の意向でやまなみこども園に通ったのである。

石井 光太(いしい・こうた)
ノンフィクション作家

1977年東京生まれ。作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。著書に『物乞う仏陀』(文春文庫)、『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』『遺体 震災、津波の果てに』(いずれも新潮文庫)など多数。2021年『こどもホスピスの奇跡』(新潮社)で新潮ドキュメント賞を受賞。