ステーキ1枚、ペロリと食べちゃう

照さんは45年ほど前から一人暮らしだが、「映画館の中にいるから」、一度も寂しいと思ったことはない。

劇場を閉めたら残り物でご飯を済ませながら、遅くまでテレビに熱中する。スポーツが好きで、ジャンルは問わない。

「野球も好きだし、バレーボール、サッカー、スケート、何でも観る。スポーツは、好きやね。アツくなって、応援しちゃう。だから夜は結構、遅くまでテレビを見て起きていて、朝はゆっくりやね」

食べ物の好き嫌いはあまりない。基本、食事にこだわりはないし、自分では作らない。

「朝にちゃんとお味噌汁を飲むとか、そういうのは決めてないの。残ったものを、パッパッっと食べて終わり。お昼は、外で食べることが多いね。あとはお弁当。『食事は三度』とかにも、ちっともこだわらないな。健康に悪いんやろうけども、今も健康やからね。好きなのはお肉、やっぱり肉だったら、ステーキやね。お酒はいつも、コークハイ。甘くて、おいしいから。ケーキも和菓子もあんこも大好き。強いて言うなら、ピーマン、嫌いやわ」

昨夜も実紀さんと2人で、ステーキを食べたという。実紀さんは笑った。

「照さん、ステーキ1枚、ペロリと食べちゃいます。残すのが、嫌いだから。それが、元気の秘訣かもしれない。うちに来た俳優さん、『照さんと一緒にご飯に行ったら、残されへん』って、みなさん、言われます」

「私の人生は、映画やわ」

元気の秘訣は、ステーキだけではない。映画を通しての、お客とのコミュニケーションが、照さんには楽しくてしょうがない。照さんが毎月、デザインに凝ったネイルをしているのも、切符を渡す際、お客の目に留まって、話の糸口になるからだ。実紀さんは、そんな照さんの様子をいつも見ている。

全国の映画人を迎える岡村館長のおしゃれな指先
撮影=プレジデントオンライン編集部
全国の映画人を迎える岡村館長のおしゃれな指先

「自分も映画を観ているから、上映の後に、お客さんから『すごかったね』とか、『よかったね』とか、『面白くなかった』とか言われて、一緒に映画について話せるのがすごく楽しいみたい」

18歳の時から、照さんは映画を通して人の気持ちが循環する場所にずっといる。照さん自身も楽しいけれど、お客はもっとうれしいはずだ。映画の余韻を言葉にして分かち合えるなんて、無機的なシネコンではどうやっても味わえないものだから。

取材も終盤となった頃、実紀さんが苦笑しながら、照さんに問いかけた。

「ママは、好きなように生きているやろ? ストレスなんか、ないやろ? 食べたい時に食べたいものを食べて、夜遅いから、これは食べてはいけないとか、ないやろ? 映画館にいれば、ストレス、ないやろ?」

「そうやねー」と、照さんが頷く。それがまさに、照さんだ。

「私の人生は、映画やわな。自分でも、よく続けられたと思う。悪い時代もあったけど、楽しかったことしか残っていない。苦しかったことほど、やっぱり忘れるよね」

正月も休まない。大晦日だって毎年、夕方まで開ける。それ以外の休みは、台風襲来時。お客が絶対に来ないからだ、だからほぼ無休で、今日も照さんは“テケツ”に座る。

「映画が好き。だから、続けてこられた。好きなことをするのが、一番」

映画と共に生きる人生をこの瞬間も、照さんは現在進行形で生き、映画がくれるさまざまな喜びや悲しみをその身で味わっている。なんと、豊潤な人生だろう。

照さんは今月28日、95歳の誕生日を迎える。

2026年4月28日に95歳になる「別府ブルーバード劇場」の岡村照館長
撮影=プレジデントオンライン編集部
2026年4月28日に95歳になる「別府ブルーバード劇場」の岡村照館長
黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家

福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)などがある。