なぜ技術者が部品の値段を言えるのか?

マルチ・スズキの藤井辰彦・四輪技術本部長でありスズキ常務役員(四輪技術責任者)は話す。

「『1グラム1円』と『小少軽短美(モノを小さく、資源やエネルギーを少なく、重さを軽く、時間や距離を短く、美しい製品やサービスを生む)』です。多くを学んだうち、この二つが大きい。スズキの設計者は常にコスト意識を持っているのは他社にない強みなんです」

藤井はボディー設計の出身。

「例えば、サプライヤーのエンジニアに、部品の値段を尋ねると『自分は営業ではないので分かりません』という答えが返ってきます。スズキの技術者にはそれがない。

修会長は毎年、工場監査を実施して無駄はないかと、目を光らせていた。特に、小さいところに気を配っていました。

このため、自然にコスト意識がエンジニアにも身についたのだと思う。インドの技術者たちにも伝わっています」

スズキR&Dセンター・インディア(ニューデリー)のユール・シャー執行役員は話す。

「『(マルチの工場に働く)末端のインド人労働者は何を考えていると、あんたは思うか?』。鈴木修さんからこう問われたとき、インド人の私は感動を覚えました。この経営者にはとてつもない深さがある。いつも現場を廻っているため、現場視点で物事を見ることができて、懐の深さにつながっている、と感じました。現場視点が、一番学んだことでしたが、こんなトップはめったにいない」

1971年にインド西部のグジャラート州で生まれたシャーは、日本に留学した学生時代に鈴木修に一度だけ実は会っている。その後、社会人として初めて接見したのは、もう15年ほど前。

当時のシャーは邦銀のデリー支店に勤務。インドに進出する外国企業のコンサルタントだったが、経営者はインド人コンサルタントに対し率直な意見を求めてきたのだ。そもそも「末端の~」などという質問自体、初めて受けた。「私自身、この問いへの答えを準備してはいなかった」が、感動が戸惑いを呑み込んだそうだ。

シャーはインドの大学院、日本の大学院を卒業した後、日本の電機メーカー、インドのIT企業、日本のメガバンク、ベンチャーキャピタルなどをジョブホッピングして2024年から現職である。

いまやインドは作れば売れる状況に

グジャラート州にあるのがマルチ・スズキのグジャラートハンサンプール工場。2017年に稼働を始めた第3の四輪組立工場だが、村松孝洋工場長は言う。

「一番学んだことは小少軽短美。スズキのポリシーであり精神。インド人に伝わってます」

インドのグジャラード工場
撮影=著者
インドのグジャラード工場。日本式モノづくりがインドに伝承されている。

スズキの世界生産量は、2025年度(26年3月期)の見込みで346万台(前年度比5.2%増)。このうちインドが228万台(同8.5%増)と世界全体の66%を占める。ちなみに、日本は98万台(同1.1%減)で28%の構成比だ。

インドでは25年9月に間接税が改正されて、25年暦年の乗用と商用を合わせた自動車販売量は過去最高の514万台となり、中国、アメリカに次ぐ世界3位の市場にインドは成長した。

メインである乗用車市場は24年度で434万台(同4%増)の規模。

このうちマルチ・スズキは176万台(同100%)を販売しシェア(市場占有率)は40.6%。2位以下は10%台が続くため、圧倒的首位である。

また、生産したうちの33.3万台をアフリカ、中近東、日本などに輸出した。

竹内は「(83年12月の)生産開始から年間200万台生産するまでに40年かかった。しかし、次の200万台を6年から7年で実現させようと計画してます」と話す。

早ければ2030年にインドの生産量は400万台を超える計算になるが、大いなる野望でもある。

インドは人口が急増していて、自動車ローンを組める中間所得層(世帯収入が年50万ルピー~300万ルピー=85万円~510万円)が拡大中。

「いかに増産体制を確立していくかがポイント。いまは作れば売れる状態です。それでも、所得のアップに伴い消費者のニーズは多様化しているため、人気の高いSUV(スポーツ多目的車)をはじめ、商品ラインナップを広げていく必要はあります。1車種で年間5万台を生産できれば黒字化できるが、年間10万台以上を生産する車種を増やしていきシェア50%獲得を目指す」(マルチ・スズキ首脳)としている。

ハンサルプール工場でも今夏、4番目の組立ラインを立ち上げ、年間75万台だった生産能力を年100万台としていく。

新ラインはEV(電気自動車)専用ラインとなり、スズキ初のEV「eビターラ」を生産する。

「eビターラ」は日本で今年1月、インドでは2月に発売された。現在、既存ラインでSUV「フロンクス」などと混流生産しているのを、新設ラインに移管しEVの生産体制を拡充していく。

今年2月に参入したくらいだから、EV化にマルチ・スズキは出遅れている。インドのタタ・モータズや同じくマヒンドラ&マヒンドラ、韓国の現代自動車などが先行する。

電動車両としてマルチ・スズキは、ハイブリッド車(HV)にこれまでは注力してきた。