パートナーが見つかるか
さらに、解凍した後の卵子がすべて使えるわけではない。
ある専門医の方は「私だったら、万全を期したいなら、20個は保存してほしいと言うでしょう」と言います。
卵子凍結の初期費用は一般的に60万円ぐらいで、20個保存したとしたら1年間20万円は必要になる。若いうちに保存したほうがいいので、20代から保存すると、結局「お守り」や「預金」が本当に効力を発揮するまでに、いくら払い続けるのか?
また「卵子の冷凍保存ができれば、キャリアの妨げにならない」という言説をよく耳にしますが、本当にそうでしょうか? 実は妊娠を遅らせるのは、「キャリアではなく結婚」の方です。結局のところ「適切なパートナーに出会えない」ことから妊娠が先延ばしになる。仕事なら「何歳までやれば、ある程度のキャリアが手に入る」とめどが立つでしょうが、パートナーに関しては今より明日、明日より1年後、10年後のほうが良いパートナーにめぐりあえる保証はない。
結局のところ、今卵子を冷凍保存する人が増えたら、10年後には「精子も売ってほしい」という状況もあるだろうなと想像できます。
欧米ではこのような「社会的卵子凍結」(Social Freezing 治療目的の人は医学的保存という)に対して「女性の選択の権利」として、ガイドラインを発表しています。日本もそれに倣ったわけですが、真の意味での「女性のライフスタイルを変える」変革になるには、まだまだということです。
このような現状を踏まえ、冷静に判断してほしいと思います。「お守り」にしては値段が高いと思うか、それとも安いと思うのかは人ぞれぞれの価値観です。
多くの心ある医師は「女性が不妊治療ビジネスの餌食にならないように」と警鐘を鳴らしてくれますが、私は「お守りでもいいから、欲しい」と願う女性の気持ちも大切だと思うのです。
少子化ジャーナリスト、作家、白百合、東京女子大非常勤講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『婚活症候群』(ディスカヴァー携書)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書) など。