休めない医師たちが「月に1回休む」ワザ

そこで4人の医師はかわるがわる休むことにしました。ふつうに休むことはできませんから、「休む人のカバン」を、「研究室に行く人」が実験室に持っていくのです。

「あれ、今日は石井さんの顔を見ていないな」

ある日曜、五十嵐教授が言いました。

「いや、さっきいましたよ。どこか別の場所で実験しているんでしょう」

宇佐美先生が石井先生のカバンに目をやりながら応えます。本当は石井先生はお休み。宇佐美先生がそのカバンを持ってきたのですが。

「そうか」

いそがしい五十嵐教授はそれ以上追及することなく、その場を立ち去りました。

「でもね、みんな1年や2年という限られた時間で自分の研究テーマを勉強して力をつけたいという目的で留学していますから、基本的にはすごくまじめなんですよ」と宇佐美先生。

「ただ、月に1回くらいは休みたいですよね。だからそんなふうに交代で休んで、時には遊びに行ったり、のんびりしたりしましたよ」

そう言って笑いました。

乗り物酔いと耳の構造の関係

石井先生も宇佐美先生も、「探究心」が人一倍。特に石井先生は「なぜそういうことが起こるのか」という生理学、宇佐美先生は解剖したり電子顕微鏡でのぞいて「構造」をみたりする解剖学のほうに興味があるようです。

それではなぜ、「宇宙酔い」「乗り物酔い」が起きるのか、二人の先生に説明してもらいましょう。

まずは構造にくわしい宇佐美先生。

「耳のおくにある、カタツムリみたいな形をしている『蝸牛かぎゅう』、ここで音を聞いています。そして(1)前半規管、(2)後半規管、(3)外側半規管をまとめて三半規管といい、回転の加速度を感知します。三半規管はリンパ液で満たされていて、回転するとリンパ液もそれに合わせてまわるので、自分が回転していることを感じるのですね。一方で(4)卵形らんけいのうと(5)球形のうには『耳石器じせきき』があって、これは直線の加速度センサー。細胞の上にたくさんの小さな石がのっているので、例えば車が急ブレーキしたり、エレベーターが一気に上がったりすると、石だけが一瞬置いていかれる。そのズレによって加速度を感じるんですね」

耳の中のとても小さな器官にそんな複雑な働きがあるのですね。さてこの(1)〜(5)の信号が脳にいき、加えて「足で立っている」というような「筋肉」からの情報、上に天井があって下に床があるというような「目」からの情報も合わせて人はバランスをとっています。