200時間のインストラクターコースで学ぶ
さてスタジオ・ヨギーでは「ヨガ哲学」というヨガの聖典をもとにした古くからの知恵や、ヨガ流の解剖学を学びます。キミ先生はいつものように教室中の生徒に目を配りながら、ひとつひとつ説明しました。
「右鼻と左鼻にはちがった役割があり、それぞれ呼吸法の仕方があって、そのバランスは人によってちがいます」
「心を整えるために、まず体を動かしましょう」
どの生徒も熱心にメモをとり、キミ先生にならって体を動かします。ところがマサさんこと石井先生は、ほかの生徒よりやる気が感じられません。それもそのはず、キミ先生の講義を受けながら、石井先生は心の中で(左右の鼻に別々な役割? ありえない!)とつぶやいていたのです。
(マサさんは、丁寧に宿題をしてくるけれど、何だか信頼されていないみたいだなぁ)
キミ先生は悲しい気持ちになりながらも、講義をつづけました。
すると、いつごろからでしょう。200時間のインストラクターコースを終えるころ、石井先生の顔つきがだんだん明るくなっていったのです。
「いいか悪いかではありません。すべての色がこの世界にはあるのです」
「万物は善が前提です」
キミ先生がヨガ哲学を話せば、石井先生はうんうんとうなずいているではありませんか。次第に周りの他の生徒さんとも会話をし、ヨガ教室にとけこんでいきました。
医師としての知識を広める
「ええっ、マサさんってお医者さんだったの?」
インストラクターコースが終了するころ、石井先生が自分の職業を告げると、キミ先生はおどろきました。
「そうなんです」と石井先生はうなずき、力強く話しました。
「ぼくはヨガのおかげで元気になれました。だからこれからは医師としての知識をヨガの世界に広めたいし、ヨガの医学的根拠を確かめていきたいんです。ぼくもヨガは単なる運動のひとつだと思っていました。でもヨガ哲学や瞑想、呼吸、すべてが合わさってヨガなんですよね。ヨガの素晴らしさを広めたい。どうすればいいでしょうか、キミ先生」
キミ先生は情熱にあっとうされながらも、ヨガ業界、そして世の中の人の役に立ちたいという石井先生の思いに感激しました。
「そうね、じゃあ一緒にイベントをしましょう。例えばマサさんは自律神経やねむれない人に向けての睡眠障害の話、うつ病の医学的な説明をする。私がそういったなやみに働きかけるヨガの指導をするというのはどうかしら?」
「いいですね! やりましょう!」
こうして年に数回、石井先生とキミ先生はそろってイベントを行うようになりました。それは毎回大盛況でした。
1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。
