毒になる「あたりまえ」には注意

戦後のように、皆が貧しくて仕事も少ない中で、目の前の与えられた仕事を懸命にやっているときも、そこに悩む暇はやはりないでしょう。

悩みが出てくるのは、豊かさが生まれたときといえるかもしれません。

命の危険がなくなり、余裕が生まれてはじめて自分の「あたりまえ」と周りの「あたりまえ」が変わってきます。「あの人のようにはできない」「あんなに幸せな人がいるのに自分は」など、悩みが生まれます。

悩みが出てきて、やりたくないことや、やめたいことが出てきたり、人のことが気になったりするというのは、実は、余裕があるともいえる気がするのです。

だから、人と比べてしまったり、今の自分が嫌になったりするときは、その背後にある豊かさに気づきなさい、ということでもあるような気がします。

一方で、誰かに押しつけられた「あたりまえ」は、心やからだを壊す毒になることもあります。そんな「あたりまえ」はときどき疑ってみることも必要かもしれません。

お店に立ってきた時間がスタッフの誰より長くなった私は、普段から、誰かに自分の「あたりまえ」を押しつけていないかを、自分自身に確認するようにしています。若い人たちの意見や考えを大切に扱うように心がけているのも、この理由からです。

男性にも母の日の花を

ヒルマ薬局の店内には、薬局が求める理想や夢を、絵や写真とともに描いたドリームマップが掲げられていますが、それも、若い薬剤師らのアイデアでスタッフたちが皆で描いたものです。

比留間榮子『ほどよくまわり道して生きていく』(サンマーク出版)
比留間榮子『ほどよくまわり道して生きていく』(サンマーク出版)

母の日に一輪のカーネーションをお渡しするちょっとしたイベントも、若いスタッフの提案から始まったもので、もう数年続いています。

女性だけではなく男性にもお渡しするので、「あれ? 僕に?」とおっしゃるお客様もいますが、「あなたにも、お母様がいらっしゃるでしょう?」と伝えると、ちょっと微笑んで受け取られます。ご存命であろうとなかろうと、お母様のことを思い出し、その記憶にひたる母の日も素敵だと思うのです。

当然、コストはかかるものですから、薬局は薬を売るところ、という「あたりまえ」に照らしたならば、不要となってしまうことになるかもしれません。

でも、そんな「あたりまえ」を壊した挑戦は、新しい空気を運びます。誰かのアイデアに向かって一緒に取り組んでみると、心にさわやかな風が吹き込みます。

比留間 榮子(ひるま・えいこ)
薬剤師

1923年東京生まれ。1944年東京女子薬学専門学校(現明治薬科大学)卒業。薬剤師である父の姿を見て自身も薬剤師になろうと決意し、大正12年に父が創業したヒルマ薬局の2代目として働き始める。父とともに、戦後の混乱の渦中にあった東京の街に薬を届ける。薬剤師歴は80年超、調剤業務をこなしながら服薬指導や健康の相談に乗る姿は、「薬師如来のよう」と評判で、地域の人たちの心のよりどころに。101歳で亡くなるまで店に立ち続けた。