“ちょっとした変化”にも気づいてもらえる
一方、日本での医療制度は、“平等”を基本原則としており、大病院でも一般クリニックでも、費用の面では大きな差はありません。そのため、患者がかかりつけ医を経ずに、直接大きな病院を受診する傾向が見られます。とはいえ最近では、大病院を受診するには紹介状が必要となるケースが増えており、まずはかかりつけ医に診てもらうというシステムが徐々に定着しつつあります。
医療の面で、かかりつけ医を持ついちばん良いところは、やはりふだんの状態を把握してもらえることです。体調や検査のちょっとした変化にもきちんと気づいてくれるのです。
現在、がんと闘っている患者さんにとって、定期的に大学病院や大病院で診察を受けることは非常に重要です。しかし、治療が一段落して安定期に入ったら、患者さんの側から、「相談できるかかりつけ医を紹介していただけませんか?」と、専門医に依頼することをおすすめします。なお、病院からかかりつけ医への紹介は、〈逆紹介〉と呼ぶことがあります。
良い開業医を紹介してもらえたら、1回そこを受診してカルテを作ってもらいましょう。そして、「自分はこういう病気になって、この病院で診てもらっていますけれども、万が一、急な症状が出た時には、まず先生に診ていただきたいと思います」ということを伝えるための顔合わせをしておくことをおすすめします。
“大病院の連携先”は、安心である
大学病院や大きな病院には、〈連携室〉と呼ばれる部署があります。ここが、近隣地域にあるクリニックなど、ほかの医療機関と連絡を取り合いながら、スムーズな医療連携をしていけるように調整をしています。
同時に、実は連携先のクオリティも管理しています。連携した先とのコミュニケーションが良くない場合は患者さんとのトラブルの原因となりかねないため、問題があると判断された医師やクリニックは、連携先の候補から外すこともあると聞いています。
また、専門医療機関――つまり大きな病院から連携してもらったかかりつけ医であれば、万が一の時には元の病院に返してもらうのも非常にスムーズです。
今、病院と連携医療機関との関係は、とても密接なものになっています。たとえば、病院が連携機関に向けた紹介状を発行した場合、患者さんがその機関を受診すると、病院に報告が返ってくるシステムになっています。そこで病院の側は、それぞれの機関からどのくらいの期間をおいて報告が返ってきたという記録を取っています。それがあまりにも長すぎる場合には、病院の側が警告を出します。
一方で開業医としては、評判が落ちると如実に経営状態に響きます。そのため、評判を良くしておくためにも、そして患者の紹介をスムーズにおこなうためにも大病院との連携は良くしておきたいと考えます。こうして、連携というシステムが医療の質を保っているという側面もあるのです。
1981年に神戸大学医学部を卒業し、1983年まで脳神経外科研修医。その後、神戸大学大学院医学研究科に入学し1987年に博士号(医学)を取得。その後University of California, San Francisco(UCSF)の博士研究員を経て、1988年よりMD Anderson CancerCenterのAssistant Professor。1994年から2006年まで熊本大学医学部教授、2007年より慶應義塾大学医学部教授。2016年より慶應義塾大学病院副院長、臨床研究推進センター長をつとめた。2022年より藤田医科大学腫瘍医学研究センター長。
