もし、親が認知症になったら──。ある日突然、銀行口座が凍結され、生活費も引き出せなくなる。そんな事態を防ぐための対策を専門家に聞いた。

お金を移動しただけでは「贈与」には当たらない

東京都小平市に住む女性(53)は、79歳になる母親の介護のために必要なお金をいつものように下ろしに行った。ところが、その日に限って母親のキャッシュカードが使えなかった。

窓口で確認すると磁気不良のため再発行が必要とのこと。「ではその手続きを」と依頼すると、「このカードの名義人は誰ですか」と聞かれた。女性は正直に「私の母親です」と答えた。

窓口の行員には「ご本人様が直接いらっしゃれば手続きできるのですが、たとえご家族でも、代理の場合はご本人による委任状が必要です」と説明された。

女性の母親は認知症を患っており、その診断・診察も受けている。委任状を書いてもらおうにも、それは叶わない。女性が説明すると、「申し訳ないのですが、この口座は使えなくなります」とのこと。いわゆる口座の凍結だ。

法的な側面から言うと、銀行口座は他人の利用は認められていない。各銀行の預金規定でも「口座は本人利用が原則」などとされている。

しかし、女性のように親の世話をするために、親名義のカードを預かり、日常的に現金を出し入れしている例は少なくない。

相続のエキスパートで税理士の福田真弓氏はこう説明する。

「認知症になった親のお世話をする家族は日本中にたくさんいます。そのときにかかるお金は、親の蓄えから出すというのが大前提です。息子や娘が自分たちのお金を使って親の面倒を見てもいいですが、そんな人たちばかりではありません。子ども世代が自分たちのお金を使って世話を続けると、精神的にも金銭的にも疲弊し、いいことはありません」(以下、同)

しかし、親の金を使おうにも、前出の女性のように口座が凍結されてしまっては元も子もない。どのように対策すればいいのか。

「人は年を取り、徐々に体が弱ってきます。どこかの時点で歩けなくなるかもしれないし、病気をして入院することもあるでしょう。認知症になるかもしれない。そうしたときに誰が誰のお金をどう使ってサポートするのか、これを親が元気なうちから家族全員で話し合い、準備を整えておく。人生を一本の線で表すと、老後をより良く生きるための対策は亡くなるずっと前から始まります。だからこそ、財産管理はとても重要なのです」