日本人の98%が不足している栄養素がある。ビタミンDだ。女子栄養大学教授の川端輝江さんは「ビタミンDは肉より魚のほうに圧倒的に多く含まれており、肉料理から食事摂取基準値に達するのは難しい」という――。

肉ばかりの食生活では圧倒的に不足する栄養素

ミネラルとビタミン。どちらも人間が生きていくために欠かせない栄養素だ。女子栄養大学の川端輝江教授によれば、肉料理と魚料理を比較したとき、カルシウムやカリウム、鉄などといったミネラルの割合はほぼ変わらない。大きく異なるのはビタミンのほうで、特にビタミンDとビタミンB12である。このうち、ビタミンDについては日本人の98%が不足していることがわかっている。

「ビタミンDは魚のほうに圧倒的に多く含まれており、肉料理から食事摂取基準値に達するのは難しいと言えます。実際、成人日本人の1日のビタミンD摂取量を100%としたときに77%は魚から得ているという調査結果があります。ビタミンB12のほうは64%が魚からの摂取です(令和5年国民健康・栄養調査)」(川端教授)

【図表】魚献立VS肉献立 ビタミンDを多く取れるのは?
図表作成=川端輝江教授

カルシウムの吸収を助けたり免疫機能を調節したりする役割があるビタミンDが欠乏するとどうなるか。骨密度が低下して骨折しやすくなる。子どもの場合は骨の成長障害が起こる。高齢者は認知機能の低下やリウマチなどの自己免疫疾患のリスクも高まってしまうという報告もある。

「ビタミンB12も重要です。中枢神経系を含む体内の様々なシステムに影響を与える必須ビタミンであり、不足すると知覚異常・視力障害・倦怠感・集中力低下などが見られます」

食卓に魚を効果的に取り込みたい

夏に食べたい魚の一つがイトヨリだ。ビタミンDを比較的多く含む魚種で、真鯛のようにコクがある白身でありながら肉質は優しくほぐれ、皮に甘みと香りがある。ピンクがかった赤色の体には頭から尾ビレにかけて淡い黄色と白色の帯が走っており、その味と美しさで高級なレストランや料亭でも使われる魚だ。店に並ぶ頻度はそれほど多くはないが、値段は手ごろでおいしいので、見つけたら買ってみよう。

食欲が減退しがちな夏の食材は見た目も大事。涼やかで華やかなイトヨリを丸ごと食べる効用と方法を教わりました
筆者撮影
食欲が減退しがちな夏の食材は見た目も大事。涼やかで華やかなイトヨリを丸ごと食べる効用と方法を教わりました

「魚は季節感が大事。夏においしくなるイトヨリはその涼しげな色合いをまずは楽しんでほしい。だから、色を生かせる料理がおすすめ。衣を薄くつけた天ぷらやあらも使った透明なすまし汁、などだね。加熱するとふんわりとして、骨から身を外しやすいのもイトヨリの特徴だ」

この時期にイトヨリを丸ごと買って食べる意義を教えてくれるのは元水産庁職員で鮮魚店「サカナヤマルカマ」(神奈川県鎌倉市。以下、マルカマ)のアドバイザーを務める上田勝彦さん。長崎大学水産学部在学中から漁船に乗り、1991年に水産庁に入庁。魚食の普及活動に尽力してきた。2015年に起業したウエカツ水産の社是は「魚伝えて、国興す」。魚はおいしくて、健康的で、(切り身や刺身で買うよりは)リーズナブル。輸入品に頼らずに食生活を豊かにできるので国益にもつながるのだ。

鎌倉の高台にあるサカナヤマルカマにて。その日に並んでいる魚の料理法などを親切に教えてくれる店員がいることが店選びのポイントです
筆者撮影
鎌倉の高台にあるサカナヤマルカマにて。その日に並んでいる魚の料理法などを親切に教えてくれる店員がいることが店選びのポイントです