「創業からしばらく、経営や戦略を伏せてきた」

「日本だけでなく世界が舞台」。6月19日の上場記者会見で山田は、改めて世界で勝負する覚悟を口にした。

「世界を目指す」「グローバルで成功する」と口にしないITベンチャーの経営者を見かけるのは難しい。というほど、「世界」という目標はありふれたベンチャーのゴールになっている。しかし、山田のそれは、決して見てくれではない凄みがある。彼を世界に向かわせた環境や思想については別稿に譲るが、その覚悟は本物と言えるだけのストーリーがある。

6月19日、都内で会見を行った山田進太郎会長兼CEO(写真=プレジデントオンライン編集部)

むろん、世界で勝ち抜くことは容易ではない。創業翌年の2015年9月から取り組んでいる米国市場に数十億円の投資を注ぎ込んでいるが、今のところ思うようには進んでいない。それでも山田は上場で得た約600億円の資金を武器にアクセルを踏む。

「米国は、うまくいけばいくほどお金が掛かると思っているんです。でも、市場規模は米国だけでも日本の4倍はあることがわかっている。KPI(評価指標)を見ながら、きちんとトップラインを伸ばしていく。その資金が(上場で)得られたというのは結構大きい」

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「創業からリリースまでは『モバイル×コマース』としか言っていなかったし、リリース後もしばらくは、経営や戦略をなるべく外部に分からせないよう、極力イベント登壇やメディアに出るのは避けてきた」。そう明かす山田は今、新たなステージでのこだわりの策を周到に練っていることだろう。(文中敬称略)

井上 理(いのうえ・おさむ)
フリーランス記者。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BP社に入社。以来、IT・ネット業界の動向を中心に取材。日経ビジネス、日経ビジネスオンライン、日本経済新聞電子版などの記者を経て、2018年4月に独立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式』(日本経済新聞出版社)、『BUZZ革命』(文藝春秋)。
(撮影=今村拓馬)
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