試作アプリを捨てた英断

3つ目のキーワードは、「細部へのこだわり」である。

話は、エンジニアが耳の病気で離脱した、創業1カ月半後の時点に戻る。この時まで、メルカリのアプリは、ウェブページを使って画面を実現する、いわゆる「ガワアプリ」の方式で開発が進められていた。この方式をとれば、アンドロイドとiOS、それぞれ最適化して開発する「ネイティブアプリ」より、工数が大幅に減少する。半面、使い勝手はウェブページの閲覧と大差なく、アプリならではのメリットを出しにくい。

実際、何とかラフに動くようになった最初の試作アプリは、次の画面の読み込みが遅かった。試した山田の感想は「ウェブブラウザーを使っているような感覚。これじゃダメだ」。その場で、ガワアプリを破棄し、ネイティブアプリで作り直す決断をした。以降、山田は微に入り細に入り、アプリへのこだわりを見せていく。

取引のプロセスをシンプルに

アプリのデザインでは、とにかく出品がなければ始まらないので、出品ボタンを邪魔になるくらい前面に押し出した。また、出品が少ない時でもアプリを開いてもらえるよう、トップ画面には常に新着の商品が並ぶようにした。中でもこだわったのが、ユーザーがなるべくシンプルに取引できるような見せ方だ。

たとえば競合アプリでは、購入時に「購入申請」というプロセスを要していた。購入の意思を示した後、出品者がOKを出してはじめて、カード払いや銀行振込といった決済に進む仕組みだ。メルカリではこの手順を簡略化し、すぐに買えるようにした。

「出品して購入されて取引が終わる一連のサイクルをいかにシンプルにするかにこだわりました。『発送してください』『コンビニで支払ってください』といったメッセージも、誰が見ても分かる文言にしようとすごくこだわっていましたし、たぶんほかのアプリよりもだいぶ分かりやすかったんじゃないかなと思います」

こうした細部へのこだわりは、プロダクトにとどまらない。