極端な選択肢を最初に持ってくる

夫のもくろみどおりの展開だ。本題からは少しそれるが、ここで技法をひとつ紹介しないわけにはいかない。それは、極端な選択肢を最初にもってくること。そうすれば、あなたが本当に相手に選ばせたいものを、より妥当な選択肢であるように見せることができる。

ジェイ・ハインリックス『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ポプラ社)

さて、先ほどの夫婦に話を戻そう。

夫:じゃあ『タイタニック』はどう?

本当は妻にはほかに好きな映画がある。だが、最初の提案のあとだけに、そう悪くも聞こえなかったようだ。

妻:いいわよ。

そう、『タイタニック』だ。最初から夫が見たかったのはこの映画なのだ。過去形、現在形、未来形と3つの種類の技法を使い分けることが、成功の鍵を握っている。議論や会話を進め、選択を促したいときには、未来形を使うことが大切だ。

もっと株を買うべきか、それとも債券を買うべきかをめぐって、夫婦が話をしている。

夫:成長株をもっと買おう。
妻:専門家が言うには、今年は市場が暴落するそうよ。慎重になったほうがいいと思うわ。

ふたりはなぜ議論しているのだろう? それは、将来の経済情勢が予測できないからだ。いまの時点でできるのは、せいぜいよく考えることぐらいである。この議論に現在形を使ったとしたら、どうなるだろう?

夫:優良株を買うのがいいって、いつも父が言ってた。それが投資のあり方だよ。
妻:いいえ、それは違うわ。占いによれば、優良株は凶と出てるのよ。

正しい選択など存在するのだろうか? あるのかもしれない。だが、この夫婦はどうするのが正しいのかわからないまま、とにかく決断しなければならない。このような問いは、事実(過去)や価値(現在)ではなく、可能性(未来)を論じるものだ。