「非難」「価値」「選択」、それぞれの論点の例として挙げた文章には、あるパターンが見られる。「非難」するための質問は過去形、「価値観」を問う質問は現在形、「選択」を問う質問は未来形を使っているのだ。

・非難=「過去形」
・価値=「現在形」
・選択=「未来形」

論点がずれたら、時制を変えてみる

だから、話があらぬ方向へいってしまったときは、時制を変えて話してみるといい。先ほどの夫婦は、現在形(価値)を使ったせいで、前へ進めなくなっている。彼らのセリフを巻き戻して、未来形(選択)を使わせてみよう。

妻:少し音量を下げてもらえる?
夫:そうしたほうがいいよね。

ちょっと待った。夫のほうは「喜んでそうするよ」と未来形で言うべきじゃないか? もちろん、そういう言い方もできただろう。だが夫は、あえて未来形を使わないことで、こんなふうに続ける余地を残したのだ。

夫:ところでそれって、音量が大きいっていうこと? それとも音楽を変えてほしいってことかな?
妻:それなら言わせてもらうけど、サザン・ロックは好みじゃないの。

これは痛い! 夫のほうがなかなかうまく出たと思ったら、妻は、古典ロック全般を否定しにかかった。こうなると、夫のほうも言い返すのが当然という気持ちになる。だが彼は、なんとか気を落ち着けて、控えめにこう言った。

夫:もっと明るい曲がいいってこと? 僕はそんな気分じゃないなあ。映画でも観る?

夫は「選択」に話題を向けることで、攻撃的な展開になるのを防いだ。同時に、妻の態勢を崩し、説得しやすくする効果もあったかもしれない。

妻:何かいい映画はある?
夫:『オデッセイ』はどう? しばらく観てないよね?
妻:『オデッセイ』? 私、あの映画は嫌いなのよ。