「仕事を通して、お客様の人生に触れる」

この中央タクシーをゼロから作り上げてきたのが、会長の宇都宮恒久さんだ。およそ40年かけて、他にないサービスを提供する中央タクシーを創り上げてきた。

「当社の仕事は、ただA地点からB地点にお乗せするだけでなく、地域を楽しくするお手伝いなのです。いまも、会社の駐車場を開放してお祭りをやろうとか、地元のサッカーチームを応援するツアーを組もうといったアイデアが社員の間からどんどん上がって、前進を続けています」

こうした積み重ねがあるから予約だけで9割が埋まる。時間帯によっては100%埋まるという。空車が街中を走っていても、予約優先のために断らざるを得ない場合も多い。

中央タクシーは「お客様が先、利益は後」という経営理念を社員一人ひとりが現場で実践している。経営理念は現場で実践されていなければ何の価値もない。立派な経営理念が社屋に飾られていても、現場で飛び交う言葉が、「もっと稼げ、もっと儲けろ」ばかりでは意味がない。

中央タクシーは、長野県下で初めて値下げを敢行し、迎車料金を廃止し、全車両禁煙なども実施してきた。身体が不自由な高齢の客のために、雪かきをすることも当たり前に実行している。宇都宮会長は、タクシーの仕事についてこう語っている。

宮永博史『ダントツ企業「超高収益」を生む、7つの物語』(NHK出版新書)

「タクシーのいちばん奥に隠れている本質というのは、仕事を通して、お客様の人生に触れるということなのです。お客様の人生を見るし、そこにどんどん触れていくわけです。だとすれば、サービスというよりも、お客様の人生に触れるがゆえに、『仕事を通してお客様の人生を守る』というのが私どもの仕事だと思っています」

宇都宮会長が中央タクシーを創業して40年になる。そして、中央タクシーでは、日々、社員が「伝説」を創り上げているのだ。

新刊『ダントツ企業』は、中央タクシーのようにダントツに秀でた企業に注目して、「なぜ儲かるのか?」の仕組みを解説している。興味のある方は参考にしていただければ幸いだ。

宮永博史(みやなが・ひろし)
東京理科大学大学院教授
東京大学工学部卒業。MIT大学院修士課程修了。NTT、AT&T、SRI、デロイトトーマツコンサルティングを経て2004年より現職。コンセプト創造、開発・プロトタイピング、ビジネスモデルなどの講義を担当。主な著書に『顧客創造実践講座』(ファーストプレス)、『理系の企画力』(祥伝社新書)、『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』(中経出版)、共著に『技術を武器にする経営』(日本経済新聞出版社)など。
【関連記事】
客にも従業員にも愛される日本一のホテル
3人に2人が3年で辞める「宿泊・飲食」
"残業減なら給料増"元ブラック企業の革命
「ちょっとウザい人」が出世していく理由
労働時間を減らしても"幸せ"にはなれない