でも私は違いました。世界的に見ると、通信事業の黎明期は国営から始まった独占的な企業が市場をリードしますが、規制緩和が進むにつれて、純粋な民間企業がシェアを伸ばす。そのダイナミズムが、国の経済そのものを発展させる。孫さんはそのための「天下取り」を本気で考えていると感じました。実は、当時の私には「少し経ったら再び選挙に出て、政界に戻ろう」という気持ちもあったのですが、この言葉で消し飛びました。

孫流に言えば、これは「大ボラ」。1000億円超の赤字に喘いでいた会社のトップが言うことではないですし、誰も信じなかった。ところが2014年、本当にドコモを抜いて売上高で首位を達成しました。元国会議員の視点からも、この器の大きさには圧倒されました。

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大勢の前で堂々と「大ボラ」を吹く

ただし「天下取り」ばかりを考えているかというと、必ずしもそうではありません。東日本大震災では、孫さんは被災直後の3月22日から精力的に福島に赴きました。まだ放射性物質の影響がわかっていない時期のことです。不安の中、メールで「私が同行します」と送ると、すぐに「嶋さんが行ってくれたらありがたいけど、ご家族は大丈夫?」と返ってきました。あくまでも部下を気遣う。そこに魅力があります。

内藤誼人が分析 心理学的なツボ

【フレーミング】枠付け(フレーミング)には「やる」と宣言して人を動かすポジティブ・フレーミングと、「やらない」と宣言して人を動かすネガティブ・フレーミングの2種類がある。ビジネスの場では前者が有用だ。

ソフトバンク顧問 嶋 聡
1958年生まれ。86年松下政経塾修了。96年衆議院議員に初当選。3選を果たすが、2005年9月落選。同年11月から14年までソフトバンク社長室長を務める。著書に『大風呂敷経営進化論』などがある。
(稲田豊史=構成 遠藤素子=撮影 時事通信フォト=写真)
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