口約束を信じて、後妻のストーカー化

遺産は現金や不動産など「プラス資産」ばかりとは限らない。借金や未払いの税金、医療費やローンなどの債務を受け継ぐこともある。川田亜矢子さん(仮名)は、夫の「マイナス資産」に悩まされた一人だ。

「亡き夫は、以前は中小企業経営者としてやり手のクチでしたが、数年前に癌を患い、会社の業績は急降下。さらに治療費はかさむ一方で、晩年の生活費は私の実家から借りるほどの困窮ぶりでした」(川田さん)

川田さんは後妻だった。亡夫の前妻は、とうの昔に亡くなっていたが、前妻には息子と娘の2人がいた。つまり、故人の遺産相続人は川田さんを含めたこの3人となった。だが、前述の通り、川田さんの亡き夫は死亡時、資産よりも負債のほうが多かった。そこで、3人はそれぞれ無条件に財産を放棄する「相続放棄」の手続きを取った。そうすれば債務を負う義務からも解放されるからだ。

川田さんは、資産はゼロでも、借金に追われる心労から解放されると、ひとまず胸をなでおろした。ところが話は、これでは終わらなかった。

「義理の娘が、とんでもないイチャモンをつけてきた揚げ句、ストーカーと化してしまったのです」(同)

一体、どういうことか?

「どうやら夫は羽振りがよかったころ、娘に『会社は息子にやるが、おまえ(娘)にも金は残してある。1000万円以上はあるから安心しろ』と言っていたようなのです。その“口約束”を信じた義理の娘は『私が貰えるはずの1000万円はどこに消えた! アンタが使ったんだろう。返せ』と、私にお金を要求してきたのです。私は、長年夫を介護してきましたが、娘は介護なんてまるっきりしなかったのに」(同)

当然、川田さんは「相続放棄で法的にカタがついた話」と主張。要求をつっぱねた。しかし、それで引き下がるような敵ではなかったという。

「1日に何十回も『金を返せ』と電話してくるわ、当時私が住んでいた家に石を投げつけてくるわ、執拗な嫌がらせが続きました」

結局、川田さんは地方の実家に避難するしかなかった。そして、今もそこに住み続けているそうだ。

吉澤税理士によると、こうした「故人の口約束にまつわるトラブルは非常に多い」という。

「言うほうは案外適当に言っていても、言われたほうは信じ切って、その遺産をすっかりアテにしてしまうものなのです」(吉澤税理士)

故人に確認しようにも、死人に口なし。結局、害を被るのは残された家族なのだ。

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