財産で揉めるのは金持ちだけ、そう思っていないだろうか? 司法統計を見ても、相続トラブル数は年々増える一方。決して、他人事と思ってはいけない。
どんな幸せな家族でも、遺産相続問題は揉める。それは、ニッポンの“幸せ家族”の象徴、「サザエさん」の磯野家さえ例外ではない――。ベストセラー本『磯野家の相続』は、世にそんな教訓を示した。それでも、ウチは揉めるほどの財産はない、とタカを括っている人が多数派だろう。
だが、現実に「普通の人々」の間で起きた以下の事例を知れば、世間で起きている厄介事は、いつ何時、自分の身に起きてもおかしくないと実感できるかもしれない。
弁護士が入れ知恵。兄が上乗せを要求
都内在住の香山洋平さん(仮名・43歳)は、中小企業経営者だった父親から「おまえたち兄弟が揉めないように遺言書は作ってある」と生前、再三言われており、「遺産相続の揉め事は無縁」と信じて疑わなかった。実際、父親の死後、遺言書は存在。その中身も長男が現金預金と死亡生命保険金を、次男は自宅を相続する案で特段問題は感じなかったという。だが、蓋を開けてみると……。
「かつては数千万円あった親父の預金が、開けてみたらスッカラカンだったんです」(香山氏)
おまけに、生命保険は亡くなった父親自らがすでに解約していた。その金はどこにいったのか?
「老人ホームですよ。それも、高級老人ホーム。入会金が1000万円超、月々の支払いが数十万円のところに入ったのは知っていましたが、預貯金どころか生命保険まで食いつぶしていたとは」(同)
亡父が遺言書を書いた時点では、資産を兄弟のそれぞれに3000万~4000万円相当分を配分する「平等条約」だった。ところが、それから数年が経ち現金預貯金が目減りしたことで、遺言書は今や「不平等条約」になってしまった。当然、これに怒ったのが、長男だ。遺言書を無効にして、自宅を現金化して2等分する案を持ちかけてきた。
「兄の主張はもっともですが、私は父の家を売りたくはありませんでした。建て直して家族で住みたかったのです。ですから、土地の評価額の半分を渡そうと思いました」(同)
ところが、だ。
「提示した地価より、実際の地価は高いと言い出したんです」(同)