平屋は水がどこまで迫っているか見えない

亡くなったのは高齢者、障がい者というニュースを耳にすると、重度の、歩行困難な様子を思い浮かべませんか? そんなことはありません。歩ける方でも亡くなっています。

私の知る方は洋服の裾上げやお直しをお願いしていた優しい笑顔の70代のご婦人で、平屋にお住まいでした。

平屋だと水がどこまで迫って来ているのか見えません。そして、冠水に気づいて逃げようとしても垂直避難ができません。玄関が開く、窓が開く、と思うかもしれませんが、浸水によってかかる水圧で室内に閉じ込められてしまいます。これは車でも同様で、ひとたび浸水してしまうとパワーウインドウが使えなくなり、車内から脱出できなくなってしまいます。

もし、運よく家から出られたとしても、道路が冠水している状態で逃げるのはやはり手遅れです。冠水した水深が20センチでもとても危険です。道路には勾配があるので、少しでも坂があったら、水が流れてくる勢いで歩けなくなってしまうからです。あるいは、滑って用水路にはまって、そこから流されていきます。

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水が上がってきたら、もう玄関は開かない

地域安全学会で発表された「2018年西日本豪雨による倉敷市真備町の洪水避難と地理的要因」という論文では、川辺地区454件と有井地区229件のアンケートを集計した結果が報告されています。

その論文によると、浸水してから避難した人は約30%にのぼるとありました。これには驚きました。それでも、子どもを抱えた人々は早く逃げていますし、家族の人数が多いほど避難したという結果が出ています。たしかに子どもたちのほうが「怖い」「逃げようよ」と言い出しますし、母親は子どもを守るためにパッと逃げます。

でも、2人世帯や1人世帯の人たちはあまり逃げていないのです。このような人は家族や近所からの注意の呼び掛けが少なくなりがちです。

先ほどもいいましたが、水は轟音を立てて来るとは限りません。決壊場所から離れていれば、静かに流れて襲ってきます。だから、水が到達するまでに何時間も余裕があっても、人は避難しないのです。「水が上がってきたらもう玄関は開かない、室内から外への脱出は極めて困難で逃げられない」という知識がないことも、避難しない原因なのだと思います。