②血糖値を下げることは糖尿病治療ほんの一部にすぎない

「糖質制限さえしていれば大丈夫」という残念な「糖質制限信者」が生まれてしまった背景にあったのが「糖尿病治療=血糖値を下げること」という勘違いです。現実には、いまも患者さんも医師も、血糖値を下げることがすべてと信じ、躍起やっきになっている傾向は否めません。

しかし、その考え方や治療法は、もうすでに古く、間違っています。

糖尿病で怖いのは合併症です。この病気は、血糖値が高いことではなく、そのことによって起きる合併症が問題なのです。だから、多くの病気のように糖尿病そのものを治すことができないとしても、合併症を治すことができれば、この病気は解決したといえます。

かつて糖尿病治療薬といえば、血糖値を下げる薬をイメージしましたが、近年、最も重要な合併症を治す治療薬の開発が進んでいます。糖尿病治療の現場は、かつてとは一変したと言ってもいいくらいなのです。

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合併症の真犯人はAGE

そして、合併症を引き起こす真犯人はAGE(終末糖化産物)という物質です。たんぱく質に糖がくっつき劣化する「糖化」反応でできるもので、体中で炎症を起こし、いわゆる「老化」を促進する原因物質とされています。

実は、世界ではじめて血中AGEの測定に成功したのは、私です。糖尿病専門医としてのキャリアを通してAGE、そして腎症(腎臓)の研究に没頭してきました。

AGEは一度できると体内に長く留まります。そのため、「忘れたころ」に合併症が出てくるというたちの悪い物質なのです。

たとえば、糖尿病患者で、いま血糖値の状態がいい人でも、20年後には半分以上に腎症が出てきます。それが糖尿病という病気であり、あなどることができません。そして、糖尿病性腎症になるとAGEが加速度的に増えてしまうのです。

ところが、糖尿病が専門でない医師の中には、「血糖値コントロールこそ、患者に施すべき治療だ」といまだに思い込んでいる人がいます。糖尿病専門医からすれば、血糖値コントロールなど、治療の1割くらいにすぎません。

「この患者さんの場合、どういう薬を組み合わせれば合併症が防げるか」
「もし合併症が出たら、今後どういう治療をしていこうか」
「血圧はどのくらいに抑えてもらわなければならないか」
「眼科との連携をどう取っていこうか」

患者さん一人ひとりに合わせて、糖尿病専門医は、絶えずこんなことを考えています。血糖値以外にも気を配るべきものがたくさんあり、「糖尿病の治療は、合併症とほかの病気へのフォローが9割」と言っていいのです。