また、経営にとっては、経営資源としての人的資本が効果的に調達され、活用されているかを知るための情報なのである。特に経営者が、従業員価値の実態を知らない場合は、経営を律する一つの情報である。
では、いったいどのような企業で従業員価値が高いといえるのだろうか。すでに述べたように、従業員価値を評価し、またランキングまで結びつける努力は、主に米国発で多くなされているが、なかでも老舗は、Great Place to Work® Instituteの考え方である。最近、日本でもそれを応用したモデルで日本でのベスト25社を選ぶ試みが行われている。
従業員価値を決める5つの軸とは
このモデルによるとベスト25社とそうでない企業を分ける基本軸は5つあり、信用、尊敬、公正、誇り、連帯感であると主張される。簡単に紹介すると、
(1)信用とは、従業員が責任ある仕事を任されている
(2)尊敬とは、仕事を行うために必要なものが与えられている
(3)公正とは、学歴や人種などに関係なく、公正に扱われている
(4)誇りとは、自分たちが成し遂げている仕事を誇りに思う。この会社で働いていることを胸を張って人に伝える
(5)連帯感とは、この会社は入社した人を歓迎する雰囲気がある
というような内容である。
なお、5軸は、大量の質問項目を回答者に提示し、そのなかから総合的に良いと判断される企業とそうでない企業を弁別するのに効果的な文章(良い企業と多数が肯定的に答えた文章)を選んで作成したものである。Great Place to Work® Instituteは、同様の仕組みを全世界40カ国以上で展開し、ある意味では、従業員価値評価のグローバルスタンダードになろうとしている。詳しくは、斎藤智文著『働きがいのある会社 日本におけるベスト25』(労務行政)を参照してほしい。または、Great Place to Work® Institute JapanのHPでもよい。
わが国の場合、どうなのだろうか。このコラムでも何度も強調しているように、私はわが国の雇用モデルの強みの源泉は、その長期性にあると考える。それも、いわゆる高業績のハイパフォーマーだけではなく、中間層の人材まで含めて、ある程度長期に雇用され、それによって文化や価値観が共有され、内部のコミュニケーションのコストが低くなり、チームや組織が強くなることで、日本の企業は競争力を獲得してきたと考えている。