売りが売りを呼ぶ「相互投影性」とは

株価は、株主が未来永劫にわたって企業から分配を受ける1株あたり利益の現在価値である。明日の為替相場すら予測できないのに、10年先、20年先の利益分配を予測できる人などいない。しかし、正確な予測は難しいが、利益配分の権利を市場で行使することによって、皆が納得する予測は可能である。利益配分の権利を市場で行使すると、多くの人々の意見や見方が株価に集約される。すべての市場参加者がそれぞれ独立に、企業の将来についての意見を形成するとすれば、相場は、人々の意見を集約して一定の水準に落ち着くはずである。

以上は建前の理論だが、ジョージ・ソロスは、そうはならないという。彼は、その理由を相互投影性というメカニズムで説明する。相場のプロたちは、他のプレーヤーの読みを探ろうとする。多くの人々が買おうとする株は上がるし、売ろうとする株は下がるからである。このような読み合いが起こる場合には、企業の将来についての情報よりも、他の投資家の動きについての情報をもとに売買が行われる。他の投資家が売るという兆候があれば、先に売ろうという判断が行われてしまうのである。その兆候がまた他の投資家に投影されてしまう。その結果、売りが売りを呼び、買いが買いを呼ぶという現象が起こってしまう。これが相互投影のメカニズムである。相互参照といってもよい。

最近の投資商品や運用手法も、乱高下を助長させているのではないかと思うことがある。もっとも大きな原因は、投資信託の巨大化である。投資信託はどの株式に投資しているか手の内を明かさない。投資信託の購入者は、自分のお金が何に投資されているかわからないから、市場が変容をきたしたときに、不安にかられて解約してしまう。こうなると、投資信託のファンドマネジャーは、不利だと思っていても売らざるをえない。素人の判断がプロの背中を押してしまうのだ。

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株価が乱高下する3つの要因

パッシブ運用の増加も乱高下を助長する。これはTOPIXなどの市場の指数に比例するように投資をする、つまり指数を計算する根拠となる銘柄のセットに投資するという運用方法である。効率的市場仮説がいうように市場が効率的に機能していれば、長期的には、市場全体のポートフォリオを超えるパフォーマンスをあげることはできないと考えられる。さらに、一部の指数には先物市場が連動しているために、高度な投資テクニックを駆使することもできる。このようなメリットがあるため、パッシブ運用が増えている。パッシブ運用の場合、売買の判断は、個別企業の良し悪しではなく、市場全体の流れに支配され、相互投影のメカニズムが働きやすくなってしまう。

最近の市場の動きを見ていて不思議に思うことがいくつかあるが、そのなかでもよくわからないのは、先進国の市場のなかでは、日本の市場の下げ幅がもっとも大きいという事実である。今回のクラッシュの最大の原因はサブプライムローンの破綻である。その影響をもっとも大きく受けているのは、アメリカである。それに次ぐ影響を受けているのは、欧州である。それにもかかわらず、日本の株価の低下がもっとも大きい。

なぜこのようなことが起こるのか。私は、海外からの投資に頼りすぎたことがその原因ではないかという仮説を持っている。政府は、海外からの直接投資を増やすという政策目標を掲げたが、残念なことに、生産的資産への直接投資は増えなかった。増えたのは、証券投資である。証券投資は、利益を得るための投資でいつかは売却される運命にある。それが一時期日本の株価を支えたのも事実だが、それが日本の株式市場の不安定性を高めている可能性がある。株主は企業に対してコミットメントを持たないために、簡単に売ってしまうのである。今回の失敗を繰り返さないようにするためには、外国人の投資を呼び込んで株価の回復を急ぐよりも、日本人投資家を増やすという地道な努力が必要である。